☆1700突破感謝記念SS    噂のオハナさま

オズワールドファンタジー内で神と称される存在が居る。

それがオズワールドファンタジーを運営する一プロジェクトチームの面々だという事も広く知られている。

今後のストーリーやイベント、未だ開発途中の様々な新要素等は複数存在する別のプロジェクトチームがそれぞれ担当している。


月に一度彼らプロジェクトチーム全員が参加する社内コンペにて勝ち抜いたものだけが、見事オズワールドファンタジーに正式採用される仕組みとなっている。


それとは別にユーザーからの意見にも一応は耳を傾けている。


しかしその内容のほとんどが言いがかりにも等しいクレームの嵐、その中から本当にを掬い上げるのは並大抵の労力では無かった。

それ故、ユーザーからの意見に目を通すのは、専ら新人の仕事という風に割り切られていた。


今年オズワールドファンタジーを運営する会社に採用され、自身もオズワールドファンタジーの一ヘビープレイヤーだった彼―――――此処は敢えてプレイヤーネームで呼ぶ事にしよう。

彼、〖アミタ〗も通過儀礼としてユーザーへの対応係として配属されたのだった。


そんな彼の仕事ぶりはというと………………、


「……………毎年代わる代わるの新人にやらせてるから対応がその年によって迅速だったりガバガバだったりしたんだな」


配属二日目にしてうんざりしていた。


彼もまだ只のプレイヤーだった頃は、「クソ運営!!」と声を上げていた一人だったので、内情を知って更に悪態を吐きたくなっていた。

そしてアミタが目を通す〖御意見〗も嘗ての自分が書き殴っていたのと同じような内容が認められていて、アミタはそれを読んで目頭を押さえ、そっとゴミ箱へと移動させるのだった。


ユーザーからの意見もあれば、オズワールドファンタジーの世界に生きるAIからの意見・要望もある。

そしてその意見はユーザーからの意見よりも重要視する様にとの御達しを受けていた。

去年からおととしくらいだっただろうか、AIたちが挙って「聖域に生えた魔物をどうにかして欲しい」との嘆願があまりにも多かった。


「聖域に魔物なんているはず無いだろう」と最初は聞く耳を持って居なかったが、あまりにもそうした要望が多いので開発陣が調査をした処、ばっちり生えているのを確認――――――寧ろ開発陣が襲撃されるという事件が起きた。

それを受け即座に対応、イベント報酬に託けて聖域に棲む魔物を排除する事に成功、魔物プレイヤーの初期配置によるバグも修正されたという経緯があったからだ。


その中の一つ、サンガがダメ元で出した要望書にアミタが目を通した。


「何々…………ダンジョンマスターもイベントに参加する場合、ダンジョンの運営はどうするべきですか?か、確かにな…………イベントだと言うからには全てのユーザーに対し平等じゃなきゃいけないよな。ダンジョンマスターだからってイベントに参加できないっていうのは公平じゃない」


アミタもその意見には納得するところがあったので、それはゴミ箱には移さずにアミタの上司の所へと転送する事にした。


「えぇと、ダンジョンマスターというここまでオズワールドファンタジーを楽しんでくれているユーザーにも配慮すべきです。と――――――」


その際、アミタが何故この意見を通したかについても書き加えてから送る事も忘れない。主に彼はユーザー目線からの意見を書き加えているだけなのだが、それでも書いていてこの意見にはなるほどと思わされたのだった。


「サンガ…………確か、ダンジョン運営の補助AIだったよな。その主は、オハナか――――――」


その名はアミタも知っていた。

聖域に生えていた魔物としても、開発陣に襲い掛かった魔物(眷属)たちの主としても、〖世界大戦〗での活躍に関してはアミタ自身が身を以て知っていた。


その時の恐怖を思い出し、短く身震いをすると転送を押した。


こうしてアミタの転送したサンガの意見はすぐに彼の上司の目にも止まり、誰も予想していなかった速度での対応を準備することが出来たのだった。





そして後日、



イベントが大したバグも無く無事開催されて社内がほっと安堵したのも束の間、その様子を直に確認するという名目でログインしていたアミタは、イベント専用フィールドにて驚愕していた。


敵が呆気なく蹴散らされていたからである。


今回の専用フィールドに放たれているサイ型の敵は通常の敵よりも数段上の強さに設定されているとアミタは聞いて居た。

しかしながら彼が目撃したのは、サイの突撃を真っ向から受け止め、そしてそのサイをいとも容易く捕食するオハナの姿だった。


けれど彼が驚いたのはそれだけではない。

オハナの周囲に居る眷属たち、彼らもまたサイを圧倒していたのだった。

次々と敵は出現しているはずなのに、オハナと眷属たちの周囲には敵が存在していない事さえあった。

その撃破スピードと量を考えれば、アミタは悟った。


イベント報酬が尽きる――――――!!?


彼はすぐさまログアウトし、その惨状を報告したメールを関係各所に一斉送信した。

他社ではどうか知らないが、この運営の場合イベント初日というのは大したバグさえ無ければ皆が一息吐ける安息日のようなものだった。

だが、オハナの敵全てを駆逐する勢いに一度意見を交えた方が良いとの判断が下された。


その連絡を受け取った社員たちは信じられず、実際にその目で確かめに行く者も居たが、帰ってきた者たちの悲壮感と絶望感は半端なく。

重役によって”オハナを見に行く事禁止令”が出されるまで被害者を出し続けた。




オハナをどうするか?という意見で、皆頭を悩ませていた。


そのまま放置という意見も当然あったのだけれど、そうした場合の周囲のプレイヤーたちへの影響も凄まじいだろうと予想された。

何せ相手は経験値欲しさにたった一人(5号は眷属なので頭数に含まれない)で挑み、陥落させてしまうほどの実力を持った戦闘狂なのだから!!(※運営にはそんな風に思われています)


協議の結果、イベント報酬の上乗せと〖世界大戦〗の時と同じランキング報酬を追加する事が決定した。

安息を得るはずだった日が更なる追加業務を強いられることとなり、アミタもヘルプとして駆り出されるのだった。

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