☆1300突破感謝記念SS 魔王様と〖七牙〗
〖魔王側〗勢力の奥地、魔王城。
魔物たちを統べる王である彼、アレイスターは玉座に座りその眼下に見える配下の男に怜悧な視線を送っていた。
その配下は跪き、けっして頭を上げはしないが身体は小刻みに震え、何度もバランスを崩しかけていた。
当然そんな事はアレイスターの前で許されざる失態であるのだが、彼はそれを咎めるでもなく、恐怖に震える一人の配下を只見つめるばかりだった。
チワワの様に震え上がる配下を、暫くそうして見つめて、
「オハナへの褒美がまだ準備できていないらしいな…………」
埒が明かないと思ったのか、やっと口を開いたアレイスターから出た言葉は大した興味もなさそうに、素っ気ない言葉の様に周囲の者たちには聞こえた。
だが、アレイスターの放つ濃密な殺気は嘘も取り繕いさえも許さない―――――そんな気配を持っていた。
事実、この気配に充てられた者が既に何人か気絶していた。
傍に控えるフェンネルもまた、そんなアレイスターの気配に鳥肌が立っていた。
此処で気絶できたものはある意味幸せかもしれない――――――そんな風に思うフェンネルだったが、”アレイスターの右腕”を自称するフェンネルはそれを許さない。
ただ幸いだったのはフェンネルはアレイスターと同じく、震える配下の方を向いていて、アレイスターの殺気を真面に受けてはいなかった。
しかし背後からはアレイスターの殺気がこれでもかと向けられていて、とてもじゃないが振り返る気にはなれなかった。
このような殺伐とした状況となったのは、オハナが砦を陥落させた翌日にまで遡る。
アレイスターはオハナの活躍に大層喜び、盛大に褒美を用意しろと配下に命じた。
弱いと蔑んでいる植物型の魔物にそこまでしなくても…………という声もあったが、砦を陥落させたことは事実で、渋々ではありながらオハナへの褒美の話を進めることとなった。
しかし結果は先のアレイスターの言葉通り、まだオハナへの褒美は準備できていない――――――と言うより、全く用意されていないことが明らかになったのだった。
それはアレイスターが指示した品々さえも例外では無く、さすがのフェンネルも専任担当者を庇いきれない状況だった。
「応えろ。我の言葉を無視するつもりか……………?」
恐怖で応えられない配下、それに苛立ってさらに凄みを増すアレイスター…………誰がどう見ても悪循環だった。
「一か月だぞ……………?それだけの期間が有って何一つ用意できていないとは何事だ?確か経過報告書には順調に褒美を集められていると書いてあったはずだが?」
このままでは今此処で配下の者を殺しかねないと、フェンネルが問いかけることでようやく少し落ち着いたのか配下の者はその首を差し出すかのように深く頭を下げて言った。
「申し訳ありませんッ!!褒美の品々運送中に〖勇者側〗の刺客による襲撃を受け、集めた物を全て略奪されましたッ!!」
少なくとも弁明をする彼はその報告しか受けていない。
けれどアレイスターもフェンネルもそれが本当の理由ではない事など、とっくに看破していた。
この場でアレイスターの殺気を一身に受ける彼は、ただ担がれただけの傀儡に過ぎない。
彼の背後に居る存在――――――〖魔王軍〗の中でも抜きん出た実力者たち七人で構成された〖七牙〗と呼ばれる幹部たち、〖魔王〗の配下でありながらその座を力尽くでも奪い取ろうとアレイスターの首を狙い、事ある毎に邪魔をしてくる者たち――――――その者たちの中の複数、若しくは全員が裏で糸を引き、ここぞとばかりにアレイスターへの嫌がらせとしてオハナへの褒美を自分たちの懐に入れたのだろうと二人は確信していた。
だからこそ、このような時間に意味は無い。
彼が聞かされた通りの報告をアレイスターが聴けばそれで終わる話だった。
しかしながらアレイスターからすれば面白くない、アレイスター自身が怒りを抑え込む様子でさえも彼らにとっては嬉々として嗤える事なのだ。
事実、この場に居る〖七牙〗のメンバーはニヤニヤと下卑た笑みを浮かべている。
アレイスターの視線に気付くと、その〖七牙〗の一人がゆっくりと歩み出る。
「これはこれは大変な事になりましたなぁ……………どうです?次は我々がその魔物への褒美を護衛するというのは?まぁ当人の下へと渡るまでに幾分減っているかもしれませんがな」
〖七牙〗最年長――――――先代魔王の頃より仕えているバルシュッツが悪びれる様子も無く平然と言い放った。
今にも殺してやりたいほどの衝動がアレイスターを苛むが、〖七牙〗は魔王軍でもアレイスターを除けば最高戦力であり、失うと今後の〖世界大戦〗にも支障が出る。
「……………それには及ばん。此度の褒美は諦めて、折を見てまた贈る事にする」
「ほほう。ではその時には是非とも我々にも教えていただきたいものですな?運良く得られる物もあるやもしれませんからなぁ」
まだアレイスターが許してもいないというのに、バルシュッツは高らかに笑いながらその場を去って行った。
他の〖七牙〗のメンバーもそれに続いて出て行く。
アレイスターは悔しさに歯噛みしながら、玉座のひじ掛けを殴りつけるのだった。
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