☆400突破感謝記念SS 魔王とその側近
全魔物プレイヤーたちの本拠地にして、その最奥である魔王城、その執務室にて豪奢な椅子に背を預けた男、頭には山羊の様な角、漆黒の髪に深紅の瞳、一枚の完成された絵画の様な整った容姿を持つそんな彼が、
「ほう…………」
過日開催された世界大戦、その討伐数の結果を見ながら…………この世界の魔王であるアレイスターは感心したような吐息を漏らした。
普段なかなか見せないそんな反応に、側近である大悪魔フェンネルは興味をそそられてアレイスターに問いかけた。
「アレイスター様?如何なさいましたか?」
肩までで切り揃えられた銀の髪と薄い水色の瞳、前髪も眉にかかる程度で一直線に切られていて丸い眼鏡をかけている。
意志の強そうな目も相まって、全体的に生真面目な印象を受ける。
彼女がそうした事を訊いて来ることも稀であったので、アレイスターはくっくっと笑いながら手に持っていた討伐数の結果を無言で見せた。
結果に何か面白いものでもあったのだろうとフェンネルは予想し、内容に視線を走らせていく――――――。
「……………これが何か?」
フェンネルは崇拝するアレイスターが愉快に思った事を発見することが出来ずに、悔しさを滲ませながら素直に尋ねる事にした。
「討伐数の第三位に植物型の魔物がランクインしている」
「…………はぁ。猪武者どもが多く居た今回の戦場で、唯一と言って良い程に我らが拠点を守ってくれていた方ですね」
フェンネルもその魔物の事を覚えていた。
初開催という事もあってか、無謀な突撃を繰り返すプレイヤーが後を絶たない中、珍しい植物型の魔物が拠点の防御に専念してくれていたのだ。
かの魔物が拠点に居るというだけで敵は攻めあぐね、味方の士気は上がった。
終いにはかの魔物が魔王軍の守護神のように扱われていた。
上位二人の魔物もその活躍は鮮烈ではあったが、フェンネル個人としてはその植物型魔物の堅牢な守りがあったからこそ今回の魔王軍の勝利に繋がったと考えていた。
「第三位オハナ、その活動域を見てみろ。さらに面白いぞ?」
アレイスターから追加で資料を渡され目を通す、アレイスター個人が調べたそのオハナと言う魔物の詳細データのようだった。
彼の言葉通り主な活動域を見るとそこには――――――、
「聖域!?何故そのような場所に魔物が!?」
驚いて声を上げるフェンネルに、愉快そうに応じながらアレイスターは続けた。
「その魔物が聖域に棲んでいるせいで、人間側の上級クラスへのクラスチェンジには必須であるアイテム〖聖鋼蝶の羽〗が入手困難となっているようだ」
アレイスターの言葉にフェンネルはハッとした様子で問いかけた。
「下手をすれば我々が妨害行為を行っていると問い詰められても仕方がない状況なのでは……………?」
フェンネルの推察にアレイスターは口元を上げて、
「それについては神から通達が有った、どうやら極低確率でランダムポップされる魔物の初期配置の中に聖域が混じっていたようだ」
「…………死霊系の魔物が配置されなくて良かったですね」
聖域にはオハナに〖聖属性耐性〗が生えた事からわかるように、常時聖なる気に満ち溢れている。
そんな場所に死霊系がポップしてしまえば、配属と同時に死亡――――――というゲーム進行に於いての致命的な欠陥と成っていただろう。
「今はもう聖域は候補から削除されたそうだが、唯一配属された魔物が植物型というのがまずかっただろう。眷属を増やし、徐々に聖域を人間たちが気軽に踏み入れないような場所に変えつつあるらしい」
眷属を増やす魔物は他にも居るには居るが、その数は精々一匹ずつ増えて行く程度。
しかし植物型の魔物に関しては生命力が強い――――――という設定から、ステータスは低めだが成長速度も眷属の上限が増えるスピードも他の魔物よりも数倍速い。
そしてその後は眷属が更にその下に眷属を増やすというネズミ算となる。
数が居ても本来であれば火炎魔法によって一掃出来るので、それほどの脅威足り得ない植物型の魔物、けれど聖域は世界樹を傷つけてはならないという設定から魔法の使用が回復魔法でさえも禁止されているエリアだ。
最早艦隊となりかけているオハナファミリーを上限四人と設定されている人間側パーティーで攻略するのは現環境では不可能に近かった。
「だからこそ、神が何やら対策を講じるそうだ」
「対策ですか?」
「あぁ、この魔物を狙い撃ちにしたステータスの下方修正なんて事はしないだろうが、今まで通りとは行かないだろうな」
「あまり我々に不利な状況にならなければ良いのですが…………」
フェンネルの言葉にアレイスターは短く嘆息して肩をすくめてみせ、そのまま視線を窓の外へと向ける。
「これからこの魔物がどうするのか、見ものだな」
呟くように言ったアレイスターの言葉にフェンネルも応えることが出来ず、ただ沈黙だけが残った。
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