☆300突破感謝記念SS  ヤツの名は

俺の名はディーゼル、いつか伝説に名を刻む冒険者。

このゲーム最大のイベントとなる〖世界大戦〗が開催されるらしい、このイベントを機にディーゼルの名が知れ渡るのも一興かもしれない。


俺はこのイベントに向けて修行を行うことにした。


だがしかし、俺の前にある難関が立ちはだかった。

俺が強くなるために目指す上級職〖聖騎士〗へのクラスチェンジに必要なアイテム――――――〖聖鋼蝶の羽〗、これはあの聖域に生息している聖鋼蝶からドロップされるアイテムでそのレア度は途轍もなく高い。

それに加えて、聖域にはが居る。


そう、まだ新人だった頃に辛酸を舐めさせられた憎き敵、件の植物型の魔物だ。


ヤツのせいで聖域は新人の入れない難易度のダンジョンと変わらない場所になってしまった。

ギルドには今も尚聖域へと誘う類の依頼が張り出されているらしい。




しかし、だ。

俺はとある有益な情報を耳にした。


それは、”世界樹の周辺にさえ近付かなければヤツは襲って来ない”というものだった。

実際に世界樹を避けて行動すれば、以前と変わらない難易度の聖域らしい。

俺はすぐさま聖域へと足を運んだ。



世界樹を避け、聖域の中をくまなく探すも一向に聖鋼蝶の姿さえも捕らえられない。

本当にこの場所に居るのか?いいや、これだけ苦労させられるんだ。

きっと〖聖騎士〗はそれはもう有用なスキルを多く備える伝説となる俺に相応しいクラスに違いない。


考え事に夢中になっていると、後頭部に強い衝撃が襲い掛かって来た。


突然の事に驚いてそのまま前のめりに倒れ込んでしまう。



一体何事だ!!?

ダメージを受けた!?世界樹は避けたはずだ!!それなのに何故襲われる!?


すぐにでも態勢を立て直そうと試みるも、身体の上に何かが覆い被さって来ていて身動きがとれない、それでも何とか抜け出せそうになった時更に重みが増した。


ちょっと待て!!何なんだこれは!?徐々にだがHPが減って行ってるぞ!?

新手の罠か!?何にせよ早く抜け出さなければ――――――!!


自由な足だけでじたばたと藻掻いてみるが、覆い被さったそれはもうビクともしなかった。

その間にもHPはどんどん減っていく、重みが増してから更に減るのが早まった気がする。

これは――――――………死んだな。


HPが0になり、薄れゆく意識の中、何故か頭に「うぇ~い」という声が聞こえた気がした………………。




復活したのは馴染みの神殿だった。

本当に久しぶりだ、ヤツに殺られて以来死んだことは無かったというのに―――――もしや聖域にはこれから定期的に一癖ある魔物が増えて行くのか?(※違います)


聖域…………名前の通りであれば穏やかな場所をイメージするというのに、もしかするとこの世界で最も危険な場所なのかもしれん……………。




そしてクラスチェンジも出来ぬままに迎えた〖世界大戦〗。


主戦場となっているのは平原か…………プレイヤーが殺到し過ぎて獲物の横取りなどが横行してそうだな。

そう思った俺は主戦場を迂回し、敵の側面から回り込む別動隊へと参加することにした。

指揮を執るのはこうしたゲームに慣れた様子のプレイヤーだった。

軍師きどり――――――そう揶揄されるのを知っていながらも前へと出て指揮を執る彼の姿に、俺は中々好感が持てた。



戦いは順調だった。

最初の魔物プレイヤーたちとの遭遇戦は圧勝だった。

このまま行けば、もっと活躍が出来る――――――そう思っていた。


これから攻め落とそうとしている拠点には植物型の魔物が居るだけだった。


……………急に嫌な予感がした。


植物型の魔物なんて珍しくもない、だがしかしそれがプレイヤーが育てたものであればとても珍しい。

何せ植物型魔物――――――マンドラゴラからの育成は”地獄巡りの苦行”と例えられるほどの荊の道だからだ。

その道を歩んできた猛者が今目の前に、そしてそれが植物型魔物…………。


まさか――――――!!!!!


気付いた時には手遅れだった。

俺はヤツの狙撃の餌食となり一番最初に戦線離脱していた。



イベント戦場から弾き出されて、通常の世界に戻って来た俺は喜びに打ち震えていた。

だってそうだろう?

ヤツは――――――聖域を荒らす植物型魔物は、プレイヤーだったんだ。


そして一瞬ではあったが、ヤツの姿も目視でとらえる事が出来た。


着実に俺はヤツに近付いている――――――。

そう実感すると居ても立っても居られず、イベント戦場の様子をリアルタイムで見る事が出来る広場へとやって来た。

広場には幾つもの水晶を模したモニターが浮かべられ、その中の一つに俺が離脱した戦場の様子を映し出しているものを発見し、食い入るように見つめた。


ヤツは、向かってくるプレイヤーたちをたった一人で食い止めていた。

幾多の矢と魔法がその身を傷つける………そんな圧倒的不利な戦況に居ても、ヤツは勝負を諦めていなかった。

眷属一匹に至るまでを遣い尽くす、まさに死力を尽くした戦いだった。


そしてなんと、ヤツはその圧倒的不利な状況をひっくり返して見せた。


それからのヤツの所業は正直褒められたものではないが、勝ちが自然と転がり込んでくると思っていた者と、自ら望んで勝ち取りに行った者、俺には後者がとても眩しく輝いて見えた。


その戦いは俺にとって主戦場なんかの比ではない程に滾るものだった。

そして、俺はそんな勝利に貪欲であり美しく戦場に咲き誇る悪魔のような花を誰より最初に手折りたい、と思った。


そうか、ヤツの名は…………オハナと言うのか。


待っていろ、いつか必ず貴様を俺の伝説の最初の1ページにしてやる!!

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