☆200突破感謝記念SS ギルドの内部事情とオハナ眷属

「はぁ…………」


私はギルドの受付嬢を任されています、そのまま受付嬢とお呼び下さい。

自動的に作成されたクエストの依頼書を見て、溜息をもらしてしまいました。


「また聖域関連の依頼か?」

「あ、マスター」


ギルドマスターは私の手に持っていた依頼書を取ると、内容に目を通し…………そして同じように溜息を吐きました。


「……………まったく、上は何を考えてるんだか。聖域には例の魔物が居るってちゃんと報告してあるだろうに…………」


今回作成されたクエストは聖域での薪拾い、一応カテゴリーとしては新人冒険者向けの依頼になっている――――――というよりも、聖域での探索クエストの大多数が新人冒険者向けに作成されるクエストです。


ですが今や聖域はたった一匹の魔物によって、最初に踏み入る事になるダンジョンよりも危険な場所と化してしまいました。




最初に報告を聴いた時は皆さん驚いていたものです。


「聖域って魔物棲めるの?」って、私もその内の一人でした。


エルフ、フェアリー、ドライアード族の族長たちはこの報告に怒り狂い、即座に討伐依頼が族長たちの手によって発行されギルドもそれを受領しました。

しかしながら聖域に出るという魔物よりも、プレイヤーの皆さまは同時期に開催されていたイベントに夢中で誰もその依頼を受けようとはしませんでした。


そしてそのイベントが終了した後、今度こそ依頼を受けてくれると思いきや、間を置かず別のイベントを連続開催――――――そしてその後にも以前に行ったイベントの復刻版を開催。


あぁ……………神様は何をお考えなのでしょうか?

凡人である私には理解できません。



とうとう痺れを切らした族長たちが強権を発動!!

聖域に棲む魔物に対して緊急クエストとして、討伐隊を編成すると御触れを出しました。


イベントに疲れたプレイヤーの皆さまが参加してくださったおかげで、此方の予想を上回る討伐隊が編成されました。


これならば聖域に巣くう魔物もひとたまりもない筈――――――。




「すまん、勝てなかった………………」


嘘でしょう!?

討伐隊を率いて意気揚々と出て行った冒険者の人が、私とマスターにそう報告しに来たのはその日の内でした。


この町でもそれなりの実力を持ってるそれなりの冒険者の方たちなのに……………。


「あんなの勝てる訳ねぇよ……………」

「ヤツだけ別ゲーの世界に生きてやがる…………」


今はもう皆さん燃え尽きていらっしゃいます。


ただ植物型の魔物というのが判明し、移動が出来ないタイプであった為、近付かなければ大丈夫――――――そんな報告で半ば無理矢理怒り狂う族長たちを黙らせたのでした。


ギルドマスターは神様に事の次第を報告、族長たちもそれぞれ件の魔物をどうにか聖域から除去してもらうように嘆願したそうなのですが未だに何の返事も来ていないそうです。


結果として、未だにこうして自動で聖域への新人向けクエストが発行されて続けている状況の出来上がりです。

正規の依頼なのでギルド側としては張り出さないわけにもいかず、そして上位権限の方が設定した難易度が新人向けのカテゴリーである以上、受付の私には「止めた方が良い」だなんて言う権限も無く、犠牲者は増え続けました。

それと比例して増え続けるキャンセル料に、私とギルドマスターの良心がそろそろ耐えきれなくなってきた頃――――――。




「たぶん世界樹にさえ近付かなければ大丈夫なはずですよ?」


とある冒険者のヒーラーさんが聖域に行って戻って来たところを、偶々他の冒険者が見つけて訊いたところそう言われたのだという。

確かに彼女の助言通り世界樹にさえ近付かなければ、誰一人として襲われることはありませんでした。


良かったぁ…………私が「世界樹には近付かないように」と注意する分には助言として何も問題無い筈ですから、新人冒険者の皆さんの生存率が飛躍的に上昇しました。


元々こんなにもリスキーなクエストではない筈なのに、冒険者の皆さんが帰って来てくれると嬉しくてホッとする毎日でした。


そう、あの日までは…………………。


始まりは薬草採取のクエストをこなしていた冒険者さんでした。

薬草を採取していると、突然目の前にマンドラゴラの進化種が立っていて、攻撃してきたのだそうです。

逃げようとしたそうなのですが、いつもより体が重く感じ、逃げきれずにそのまま…………………。

別の冒険者さんは聖域を歩いていたら、後頭部に衝撃を感じ、何故か身動きもできないまま気が付いたら死んでいたそうです。


「まさか……………別の魔物まで棲みついたのか?」


ギルドマスターの呟きに、ギルド内が再びお通夜のような空気になってしまいました。


「ヤツが呼びこんだのか?」

「ありえない!聖域に魔物は侵入できない筈だろ!?」

「お前こそ何言ってんだ!?生えてんだろうが!?既に魔物がばっちり生えてんだろうがぁ!!?」


大混乱です。

そして、冒険者さんの一人が、


「まさか、ヤツが移動し始めたとかじゃないよな…………………?」


「「「「「……………………」」」」」


誰もその方の言葉を否定できませんでした。

あぁ、移動できるようになったのであれば――――――。


一日でも早く、聖域から出て行ってください!!







<メーベルコルテに進化した直後くらいのオハナ>


いやぁ、うん。

1号と2号が通り魔的に冒険者を屠ってる。


目撃したのはホントに偶然。


動けるようになった1号と2号はオハナの為に経験値の出稼ぎに行ってくれていた。

きっとカエルをボコってくれるのだろうと思っていたら……………。



オハナは悠々自適にオハナライフ満喫中、正直誰も来ないから平和そのものだった。

何気なく遠くを見ていると、そこにはプレイヤーさんが歩いていた。


その後ろからそろりそろりと忍び寄る2号…………「思わず逃げてー」って叫びそうになったね。オハナは声出せないから無理だったんだけど。


まるでお手本のようなキレイなフォームで、プレイヤーさんの後頭部にドロップキックする2号。

完璧な不意打ちにプレイヤーさんは倒れ込む。

それを容赦なく抑え込みにかかる2号、此処で1号も登場してプレイヤーさんの抑え込みに加担してる。唯一冒険者さんの足だけが見えてる状態でじたばたとしてたんだけど……………二人の吸収攻撃と毒攻撃の効果で―――――あ、動かなくなった。


光になって消えていくプレイヤーさんの傍らで、1号と2号が仲良くハイタッチした後両手を上げてウェーイ!とばかりにガッツポーズ――――――ってアンタたち何やってんの!?


どこぞの家政婦さん張りにオハナは一部始終がっつり見ちゃったよ!?


眷属って自我が無い筈だよね?

なのにあの子たち物凄く生き生きしてんだけど?

芽生えてる?自我、芽生えちゃってるよね?


うん、なんでだろ?罪悪感が物凄いんだけど?

お前も似たような事してるだろって言われたらその通りだし、オハナは魔物プレイ楽しんでるんだものと開き直ってみるにしても。

なんて言うのかな?こう…………自分の子どもが悪い事をしてるのを目撃したような親の気持ち?もしくは、サスペンス劇場をリアルに見ちゃった感じ?って言われてもよくわかんないよねぇ……………。


1号と2号がオハナに感化されてる気がする。

名前も知らないプレイヤーさん、眷属ウチの1号と2号が何かホントごめんなさい。

アナタを倒して得た経験値はオハナに貢がれてるので、とりあえず心の中で謝っておいた。

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