第32話ㅤ隣の窓から君は
昴とそのまま何処かへ寄るでもなく、帰宅。
風呂に入って、母さんの作り置きを食べた後は、洗い物をして早足で2階の自室に。
まったく情けないモヤシ野郎だと、自分自身に罵倒しながらは、いつもと変わらない。
けれどもほんの少しだけど自分のわだかまりが薄らいでいくのを自覚した。
仲直り出来たのかは分からないけど、あれだけ半年の間、持ち続けていた柊翼との確執が、あの一件で綺麗さっぱりなくなったのだ。
俺は机に広げたノートを今、白紙の紙を見下ろす。
そこには何もなくて、でも何かを描ける白紙。
電気を蛍光灯にして、スタンドのライトを着ける。
不思議だ。
こうして向き合うのを恐れたのに。今は向き合うことが楽しくてしょうがないのだから。
クタクタに汚れた正方形の筆箱に触り、磁石の離れる音が静まり返った部屋に響く。
4種類の鉛筆をノートの脇に並べて、頭の中に描いたのは、昔から好きだった童話だった。
白雪姫だ。
小人とのやりとりや、硝子の靴などが今でも好きだった。
だから、描こうと思う。
何も無い白紙の中へと──。
「花ー?」
夢心地に無心で鉛筆を走らせていた俺は気が付く。
時刻は23時になろうとしていた時、窓を棒状の物で叩いて声。
声を掛けたのは時雨崎杏だった。
俺は鉛筆をそっと、大事に置くと小走りで窓を開ける。
「どうしたの?」
「どうしたのじゃないわよ。いつもの時間くらいじゃない」
──俺は女の子が苦手だ。
「あ、うん。そうだね」
──トラウマとしてではなくて。
「何か、体調でも悪いの花?」
いつもの様子と違っていた花子を見て、神妙そうな顔で覗き込むように見る杏。
それでも俺の思考は止まらない。
「体調は悪くないんだけど、ただ今絵を描いてたからかな」
「──そう、やっと描けるようになったのね」
──どう言葉にすれば伝わるのか分からないから。
「うん。ありがとう、今まで何も言わないでくれて」
──寄り添うように気遣ってくれた幼馴染みに俺は初めて言う
「一緒に居てくれてありがとう、杏」
笑えているのかな、それとも赤くなってるのかな。
熱に浮かれたように自分でも口走った言葉の数々を咀嚼し、噛み締める。
だが、俺は言葉を失った。一瞬だけ覗かせた杏の表情は複雑そうな顔だった。
直ぐに取り繕うように笑顔になる。
「良かったじゃない。これでまた部活に戻るの?」
──俺は女の子が苦手だ。
彼女は泣きそうは顔をするのを我慢しているように見えたから。
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