27.8 橘輝道と草壁茜【橘輝道】
「はぁ……」
「……どうしたんだよ?」
「ぉわ!?」
部活が終わり、正面玄関で靴を履き替えながらため息を吐いていた橘輝道に声を掛けたのは草壁茜だった。
素っ頓狂な声を上げ、片思い中の橘からしてみれば予想だにしない事態である。
「いや、何にもないって言うか。少し疲れた感じ」
「? おもくそため息吐いてただろ?」
「そ、それは……」
「んだよ……。じゃあな」
橘としては好きな子との距離感が掴めなくてヤキモキしてたなんて、目の前の茜に言えるはずもなく。
方や、モジモジとしている橘を見て、ブルーな気分でいる茜は少し怒った顔をする。
いつもグイグイこちらに来る癖に肝心なところで二の足を踏むように悩んでいるであろう橘の姿に、草壁茜はどこか中学生時代の自分を重ねて見ていた。
「ま、待ってくれ」
「……?」
苛立ち気に立ち去ろうとした茜を呼び止めた橘は照れ臭そうに頭をかきながら、気恥しそうに友達の話とだ前置きして、好きな子との距離感が分からない旨の内容を茜に伝える。
大概友達の建前を使う辺り、自分のことなのだろうと茜は内心で納得して応えようとしたが、色恋沙汰に疎遠だった草壁茜に的確なアドバイスなど出来るはずもなく、考え込むこと数分。
「距離感って具体的には? 話し掛ける度合いだとか、何かを誘う場所や時とかか?」
「ぜ、全部で!?」
「その友達に直ぐに出来るアドバイスは鼻息荒いまま話すな、あと顔真っ赤にして近付くな、だ。後、何かあったかな……」
顔を真っ赤にさせ、意気揚々としていた橘の表情は一変して真っ青になる。
そうか、どうやらそんなに好きな奴が居るのかと茜は悩みに悩んだ結果。
「距離感なんざ気にしなくても嫌な奴は嫌だし。好きな奴なら近くに居たいもんだと思うんだけど」
「おぉ!? じゃあ、まだ可用性があるって感じか!」
赤くなったり、青くなったり、目を輝かせたり。
本当に忙しない奴だと茜。
てか、お前は鬼頭に告白されて振ったらしいじゃん?
そこんとこどーなのよと思う。
両手に花なんざいらね 宇治鏡花@ @miraudohien
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