27.5 ホントはね[柊翼]

「霞花子です。風景画を書くが好きです、よろしくお願いします」

 その人は自己紹介の時に、やや緊張した顔をしていた。

 最初は見た目が女の子にしか見えないって印象しかなかった。


「柊は綺麗な曲線美を意識してるんだな」

 普段通りに描いている私の絵を隣で見て、そう言ってくれる彼の言葉が嬉しかった。


「凄い? 言われて嬉しくもないね!! 柊翼の絵の方が凄いって他の人も言っていただろ!」

 中学は病気で部活に入る機会がなかった私にとって部活での日々は楽しかった。

 なのに、彼はそう思っていなかったのかと思うと心がざわついた。


「でも俺にあんな絵、描けないんだ。だから──翼。俺はお前が嫌いだ」

 嬉しかったことや悔しかったことが周循する。

 私は彼の絵に嫉妬していた。秋の絵に嫉妬していた。

 そして自分の出した絵を破り捨てたくなったのは初めてだった。

 それから二年生になり、部活を休部した彼を目で追うようになった。

 出来れば仲直りしたい。また一緒に描きたい。そんな感情を思い浮かべては消えていく。

 部活に行けば空いてる席を見て、胸が苦しくなった。

 すれ違いに声を掛けようとしたけれども、目線を合わせないので空回り。

 その時にはじめて避けられてると感じた。

 だから------向き合おうとした。



 27話柊視点



「今から帰り?」

 夕暮れのグランドを眺めて、気持ちを落ち着かせて待ち伏せしていると教室から出てきた彼と会えた。

「あ、うん。そう、これから」

 必死にどうしよう、どう話そうって気持ちを押し殺して言う。

 不安でしょうがなかった。

「実は霞君を待っていて、話がしたくて、こうして廊下で待っていたんだけど、あの時の話がしたくて! だから一緒に帰らない?」

 焦ってまくし立てるように早口でボソボソと言ってしまった。

 聞き取れなかったのか首を傾げて怪訝そうな顔を彼はしてくる。

「うん?」

 私はこれでもいっぱいいっぱいで、どう話せば許してももらえるのかって恐いのにと少し苛立つ。

「もう1度。一緒に帰らない?」

「……はい?」

 疑問形を疑問で返される感じは悪くはなかった。







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