25.8 心は上の空[草壁茜]
「なんだよ」
「妙に浮かない顔だけど何かあった?」
あたし、草壁茜のことはあたしが良く知っているつもりだった。
今朝の事といい、らしくもない行動が表立ってきたのは非常事態でかなりまずい。
確かに月光を強引ではあったが連れ回した経緯がある。
それで訝しんだ顔で昼休みになるなり、楠月光がヤケに真剣味を帯びた顔で聞いてくるので、気取らせないように、なんでもないとぶっきらぼうに返事を返す。
この男は周囲にセンシティブが過ぎる気がする。
だが、周りを良く見ている分、自分に関しては意外と大雑把な点が致命的でもあった。
「そうか」
口では納得した物言いをしているが、本人はどうにも腑に落ちない表情のまま弁当を食べ始めた。
あたしの席の右隣が月光の席で、正面が霞花子の席だ。
今はハナが学校のパン買い競走に精を出しているか、学食でご飯を食べているのだろう、現在は空席。
月光が小動物みたいにおかずとご飯を小さく箸でちぎって食べているのを見て、腹が鳴る。
「うんん……」
唸りながら風呂敷に巻かれた弁当を解き開封。
米と栄養バランスを考えたおかずの数々を眺めてまた腹が鳴る。
食いたい。でも最近体重が増えたことが気になる。
残せば叔母さんが泣くのがありありと想像出来てしまい、悩む。
「? 食べないの?」
「……食べる」
デリカシーのもない月光の発言に、さっきまでの葛藤がアホらしくなって、呟くように言うとおかずの半分を月光に渡す。
「いやいや!?」
「腹も満たせるし、おかずも山盛りだし、いいだろ?」
「ちゃんと食べないと駄目だよ」
おかずをまた戻された。
仕方ないので手を合わせて食べることに。
具沢山のおかずはどれも手の混んだように見える。
その中でも厚まき卵はその存在感をぐっと引き出していた。
デカイ。縦長の弁当で横長く幅を利かせる奴に橋を入れると出し汁が溢れた。
先ずは一口だけ。
口に入れるとほんのりと甘い出し汁が口に広がり、そのまま白米を一口。
「むっ!」
次に一口大の薄い茶色の揚げ物を口に入れる。
そこでつい、唸ってしまった。
鳥のササミをチーズと青葉でコーティングしたその味は、言葉に出来ないほど美味い。
また白米を口に入れ、レタスもミニトマトのサラダも合間合間に口に入れつつ、最後に手をつけていないおかずに箸が伸びた。
餡かけの団子状になっている外見から肉団子を連想させるそのおかずを食べ、ご飯を大量に口へ。
冷めていても溢れ出た肉汁と甘辛い餡の味付けが癖になる一品。
普通にこのままいっぱい食べたいと思うほど、美味いの一言しかない。
最初の葛藤は何だったんだろ。そう思わせる旨味の塊を食べ尽くした後、空になった弁当箱を見て呻く。
「美味すぎて、辛い」
これじゃダイエット出来ない。
それほど食欲を刺激する完璧なお弁当だった。
食後の余韻をペットボトルの紅茶を飲みながら感じていると、ハナが戻って来た。
ズカズカ。
そう効果音が付きそうなほど足早に自分の席へ行くと座ると椅子を180°回転させて、アタシ達の方へ向く。
「霞、焼きそばパンは?」
巾着を丁寧に結んでそう尋ねる月光に、実はと話を持ち出したハナ。
弁当の一件を聞いて「うわ・・・・・・」と顔を青ざめる月光。
それってあれじゃね?ゲシュタルト崩壊ってヤツと私が言うと、いやな、でもなーと首を傾げて不安そうな顔をする。
あの暴言女、弁当に何入れたんだと逆に興味が出る。
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