第28話 柊翼と霞花子
「……」
「……」
2人して無言で歩いた道程は不思議と居心地は悪くなかった。
「……」
「あれから色々考えていたの」
このまま会話もなく終わるのかと思っているとふと、足を止めて前を向きながらそう言った柊翼は静かに呟く。
「霞君はどうだったか分からないけど……私は楽しかった。誰かと一緒に描くことが今までなくて、好きだった作品を追い掛け続けたのが絵を描く理由だったから。だから、君の作品を見て、凄い思い知った──私は自分自身が好きな物が何なのかって」
普段は口数が少なかった柊が饒舌に、ここまで自分のことを吐露したのはあの時以来だった。
自分の好きなことを続けた霞花子と理想を求めて描き続けた柊翼。
元から目的が違う二人はこうして向かい合うことになった。
「君の絵がもっと見たい。君の描いてる姿を見たい。君と一緒に描いていきたい。だから──部活に戻ってきてほしい。私には君が必要だ」
まるで告白のように言う柊を見た。
気恥しいのか頬を少し赤くさせて、精一杯頑張っていたのかスカートの先を両手で掴み震えている。
相手が本気で言っていることが分かって、ここで俺は柊の方へ正面を向くと頭を下げたた。
「あの時、あんなことを言ったこと本当に後悔してる。ごめんなさい、俺はーーー柊が羨ましかった、妬ましかった」
俺を必要だと言ってくれる彼女。
そして彼女の絵に嫉妬と羨望をゴチャ混ぜにした心境で、俺は自分の感じていたことを吐き出した。
ここで柊が目を見開いてポカンとしたまま俺を見てくる。
「俺が描かなくなったのはコンテストの結果じゃないからね。あの絵を描いた柊翼に嫉妬した。自分に出来ないことが出来る柊に。でも今日話してみて分かった。柊だから、あの絵を描けたんだって」
「うん」
頷く柊は夕陽の向うに消えてしまいそうなほど、儚く微笑む。
「俺にはあんなのを描けない、それが理屈では分かってるけど悔しくて。頑張って描いたんだ、でもそれで納得出来なくて何回も繰り返して。で、描けなくなった。」
「うん·······っ」
「勝手に嫉妬として、勝手にスランプになって。俺は、柊や片喰の近くで描いている自分が情けなくて、辛くて」
「うん······」
「でも、柊はあんなこと言った俺にこうして話をして来た。正直今もどうしたらいいのかわからない」
胸が苦しい。
こんなことを言うつもりはなかったのに、どうしてだろ。
涙が溢れ出た。
「霞君、私もね実はスランプになってたの最近」
「え?」
私も同じだよと柊翼は泣いていた。
「どんなに頑張っても、どんなに想っても出来ないことをするのは苦しんだって知っていたのに、私は諦めたくなかった。だから苦しかったの、霞君にとって酷いことを言ったのだから」
涙で顔をぐちゃくちゃにさせて柊翼は嬉しそうに笑った。
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