第27話 その後ろ姿が遠くて
─放課後─
「茜」
「な、なんだ?」
今朝から昼休み。そして午後と1日を通して茜から避けられてるので、声を掛けると少し気まずそうな顔で返事が帰ってくる。
月光は終礼後、足早に帰っておりクラスも部活動や帰宅で人が疎らになっていた。
人が少なくなったのを確認して声を掛けたのだが、茜の反応はぎこちないもので、まるで緊張しているようだった。
「……」
どう話すか悩んでいる。
「なんで黙っていたんだ?」これは責めてるようにも聞こえるから却下。
「おめでとう」これもこれで嫌味のようでダメだ。
声を掛けて、しばらく考えてしまう。
その間で何を勘違いしたのかどんどん茜が申し訳なさそうな顔をするので、棘のような鋭さが胸をチクチクさせた。
どう話すか。茜と会話をしてこんなに悩むとは思わなかった。
「ごめん。言わなかったのはあたしが言い出せなかったからだ」
沈んだ顔でそう言われ、俺も少し気まずそうな顔をしていたのだろう。
ごめんと繰り返し茜は自分の鞄を掴む。
「謝らないでくれ」
必死に言葉を探しても、なく。
らしくもない、しおらしい草壁茜とすれ違いざまにそう言えるのが、今の精一杯だったのだ。
草壁茜は一貫して自分のやりたいことをやり続けて、夢を叶えた。
茜が好きなことをやり続けて、上手くいったのは嬉しい──反面、漫画を辞めると投げやりになった茜に、励ますつもりで自信満々だった自分が吐いた言葉が、自分に返ってきただけだ。
「限界は自分の物差しで決まる」
そんな臭い台詞を。
いつから勘違いしていたんだろ。好きであることと叶うことが同意義であると。
「帰ろ」
今日は杏と菫は習い事があると聞いていたので、珍しく一人で帰宅するつもりでいた。
廊下を照らす夕焼けが鮮やかだった。
その光景を無性に懐かしく感じた。
感傷に浸るつもりはなかったが何もやらず廊下を眺めているので、残っていたクラスメート数人は怪訝な顔をしている。
恥ずかしくなって俺は考え事をしていた体で教室を出ると、廊下の窓際でグラウンドを一心に見ている柊翼が居た。
「……。──?」
俺に気が付いたのか窓から視線をずらし、視線が重なる。
気まずい。
正直、1年の3学期で大嫌いと言った後、1度も話すことはなかった。
白状する。
避けていた。
目線に入っても無理矢理見ないようにしていた。
あんなことを言って、合わせる顔がない。そう自分に思い込ませていた。
「今から帰り?」
なのに、柊は”何も無かった”かのような、そんな話し方だった。
「あ、うん。そう、これから」
意表を突かれ、たどたどしい返事をしてしまう。
もっと話すべきことや、なんであんなことを言ったんだよって言うべき言葉が、頭に溢れてるのに、そんなことが言えなかった。
恐かったのだ。柊翼が。
「──?」
「うん?」
焦りと気まずさ、そしてどんな顔をすればいいのか分からなくなって混乱していると柊は何か言ってきた。
聞き取れないので、聞き返すと少し不機嫌そうな顔をされる。
「もう1度。一緒に帰らない?」
「……はい?」
柊のことがわからなくなった。
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