第三章

第26話 べんとー

 お昼休み。俺、霞花子は時雨崎姉妹にお呼ばれされ焼却炉の近くにあるベンチに足を運んだ。

 なんでここにベンチがあるのか、謎である。

「どうした?」

 毎度鉢合わせた橘との連携プレーが功を奏し、難なく自分の焼きそばパンを三つ購入出来た俺は、両手に持ちながらベンチに着くと双子は「はぁっ!?」と、口を開けたまま非難するような視線を向ける。

 いや?なによ?

「ぇえ……」

「おいおい花君、そりゃないぜ」

 唖然としてる杏に、誰かのモノマネ語り口でガッカリしてる菫。

 なんだろう。どうしようもない理不尽だ。

「これって俺が悪いの!?」

 確かに2人の太股に色違いの弁当箱が三つある。

 ご丁寧にレジャーシートを敷いて、簡易の小さい座布団も三つある用意周到さ。

 オマケにお茶のポットまでありやがるよ。

「ちなみに朝、何も言わなかったよね?」

「あれ、お姉ちゃん言うって?」

「うん? 昨日は菫が言うって?」

 天然かよ、双子して!?

 なんか俺を悪者することが、この2人は好きなのかと思えてくる。

「どうしよう」

「パンを買うって予想外だった」

 おいおい、2人して目尻を下げながら困ったなって顔をするな。

 ……しょうがない、好物の焼きそばパンを諦めるか。

「ちょうどパンも三つあるし、パンは放課後でも食べられるから3人で後で食べよう」

「花……!」

「花君……!」

 そんなに感激した顔をされると照れくさいが、少し嬉しくなって黒い弁当を受け取ると、代わりに二人にパンを渡す。

 では早速と、弁当の蓋を外して俺は固まった。

「コレ、ナニ?」

 2人がニコニコしながら俺が食べるのを待っている。

 それがなかったら脱兎の如く走っていただろう。

 人間、今死ぬべきか、後で死ぬべきかって選択肢があるなら大半は後者だ。

 俺もそれは同様で、出来るならこの未知との遭遇に慄いたまま戦略的撤退を敢行したい。

 そして焼きそばパンを食べたい!

 キラキラした眼差しを向けるな、杏!

 そして少し申し訳なさそうな顔をするな菫!?

「難しいのはやらず、オーソドックスに卵焼きとタコさんウィンナー、そして焼きそばで選んだわ!」

「うんうん……。じゃ、少しあげ──」

「うんうん、花君……?」

 なんで凄いやめてって睨むんだよ菫!?

[おいおい、本人に知らせるのも優しさじゃないかと俺は思うけど]

 右目の瞬きと口パクをモールス信号よろしくしていると、菫は口元を綻ばせ微笑む。

 そして声に出さないで口パクでこう言った。

[ごめん、今は諦めて?]

 鬼かよ……

「食べないの?」

 弁当と菫を交互に見ていると不安そうな顔で杏が聞いてくる。

 そりゃ食いたいよ。腹も減ってるし、それに不慣れな料理を必死にやった真心も伝わる──だが、これは。

 先ず!卵焼き!両面分厚く黒焦げ!?そして無事な両脇から溢れてる大量の油はなに。

 次!タコさんウィンナーは、包丁入れすぎて先から頭まで裂けてるぅ! オマケに真っ黒で炭化してる!

 最後!焼きそば!麺が団子みたいに固まって、焦げこそないものの、ごげ茶色のほうとうになってる。

 ご飯には海苔で恐らく花と書いていたであろう文字は化ける化になっていた。

 草冠何処行った!?

「──うん、食べる」

 せっかく作ってくれたこの弁当。

 料理下手な杏が頑張って作ったのだ食べねば

 、食べねばと自己暗示のように頭で復唱して、箸を掴み呼吸を整える。

 そして食べた。

「ジャリジャリにシャリシャリにドバー? でも美味しい? あれ?」

 美味いぞ、美味い。

 濃厚な卵の味とさり気ない出汁の風味。

 裂けてるのに溢れ出るウィンナーのウマミ溢れる肉汁。

 そして焼きそばの食感と味の絶妙なバランス。

 これが見た目詐欺の弁当だったとは。

「もう、なんで泣いてるの!」

「……嬉しくて」

 見た目壊滅的なのに味は凄い美味しい──でも食感は普通じゃない。ある意味奇跡の産物を噛み締めた。



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