第23話 霞椿
朝のゴタゴタを終えて、支度を終えた俺は下に降りて居間に行くと台所で朝食の支度をしている昴がトースターを睨んでいた。
「あ、もうすぐご飯出来るから待っててね」
ケトルから湯気が出ているので粉末が入っている2つのマグカップにお湯を注ぐ。
テーブルに2つ並べ、ソファーに丁寧に畳まれた毛布を二階に持っていく。
再び下に降りるとバターを塗りこんだトースト2枚が二人分の皿に乗せられている。
加えてレタスとハムを挟んでいるサンドイッチがラップされて端に置かれているのを見て、まだ徹夜しているのだろう母親カスミツバキの和室をチラッと見る。
「昨日、死にそうな顔をしていたよー」
「徹夜してるらしいな。小説家って大変なんだ?」
レタス単品にドレッシングをぶっかけた木の小皿にフォークを刺して食べ始めた昴と花子。
「大変ってもんじゃないわ、毎日死にそうだし、肌は荒れるし、ニキビも酷いし、生理痛が来ても書くしかないし、書いたやつを出しても総没喰らうなんてザラで、ほんっっっっつと楽じゃないわー」
目の周りに隈が出来た顔で和室がのそのそ歩いてくる母親。
「おはよー」
「おはよう、じゃ何で書くのさ?」
「おっはー! 昴ちゃん、花子いつもありがとうね。頂きます──で、何で書くのかって?悪い質問ね」
聞いただけなのに悪い質問なのか?と疑問に思っていると手を合わせてサンドイッチをハムっと齧りながら不敵に笑う。
その様子が昴に似ているから親子だと思う。いや、まんま大人版昴って感じだし。
「決まってるじゃない。好きだからよ」
自信満々に胸を張る母親を見て、ムッとした花子。
「好きだけじゃプロになれないだろ」
「そりゃ構成や文章の技術を磨かないといけないし、クソ高い資料だって買う、色々と勉強だってしないといけない。横の繋がりや縦の繋がりも増やさないとやってけないし、才能もいる。加えて自分達で作品の宣伝もしないと駄目な昨今だけども──どんなことでも第一に自分が好きかどうかでしょ? まぁ私の話よりも花子、最近絵、煮詰まってるみたいじゃないの」
「煮詰まるってより……描くの辞めた。ごちそうさま」
罰が悪そうな顔でトーストとサラダを急いで平らげ、食器を水に着けて、居間から出た花子。
残された昴と椿は顔を見合わせ苦笑いする。
「お兄ちゃんね、自分が描いた絵を破いたりしてたし、本当は辛いんだと思うなー」
「んー自分より才能があるって人が近くに居ると悩むって感じに見えたけどなー。まぁ小学生の時は葛飾北斎と並ぶ絵描きになるって言ってたけど」
「うーん葛飾北斎……あ! 蛸と一緒に居る女の子?ぷ……っ。お兄ちゃん描いてるのそもそも浮世絵じゃないじゃん」
「 蛸?ぁあ、ソシャゲね。いやいや実物はお爺さんよ、それに女の子は娘の方。まぁあの頃は小学生だしねー。ってそろそろ時間じゃない」
「ぅおー、やば!」
「洗い物はしておくから行ってらっしゃい」
「サンキュー、行ってくる!」
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