第21話 菫

「な、何か変な感じになっちゃったね、あはは……」

 何処か居心地悪そうな、罰が悪い顔で笑う菫の声に元気はなかった。

「でも菫の気持ち分かったし、杏の気持ちも──」

「だからって、そんな困った顔して困らせたいわけじゃないんだよ、私達は?」

 慌ててそう言った花子に困った顔をした菫は空になったタッパを片手に持ち、そんじゃねって手を振りながら部屋から出ていく菫の横顔を見る。

 泣きそうだったのだ。


 ─────


 ああ、もう少し何とか出来るって思ってたけど現実はそうそう上手くいかないやと階段を降りながら身体が震える。

 怖かったのだ。花君から直ぐに答えられるのが。

 本人が気が付いていないだけで、彼は私を見ていなかった。それが分かって、知っているような素振りをするだけで手一杯だった。

 私は臆病者だ。

 お姉ちゃんほど強くないのだと思い知らされた。

 玄関を出て、我慢していた顔の力を緩めると涙が出てくる。

「ぁ……ぅう」

 視界がぼやけてる。

 足元も周りも見えない。

 手元に水滴がこぼれ続ける。

 覚悟はしていたのに怖気ずいて、それでもやっぱり諦めたくなくて服の袖で涙を拭いた。このままじゃ駄目だと。

「お姉ちゃんに出来なくて私に出来ることで頑張る……」

 まだ涙が溢れるが自分を鼓舞して歩き始める。

 胃袋を掴むと決意して。

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