第20話 おかまいなく
俺は俯いて話しているが菫が動揺しているのか微かに呻く声が聞こえる。
「……」
「……でもそれが恋愛感情なのか自分でも曖昧なんだ。だから──」
「……ポリポリ」
「って──なんでお前がここに居る?」
「んー? いやいやお構いなくー」
菫が困ったように微笑み、タッパの中に入っているクッキーを寝起きの顔で無心で食べている昴。
なに、人の告白を台無しにしてんだよって突っ込む気さえ失せた今、ため息しか出てこない。
「ため息は幸せ逃げますぜ、旦那?」
「ったく。その幸せを逃がそうとしているのはお前では?」
「どーせ、確かだと思えるまで待ってほしいとか言うんでしょ? 」
妹よ、お前はエスパーなのかと本気で思ってしまった。
顔を引き攣らせた俺はまた、ため息すると素直に頷く。
「何年、兄さんの妹様していると思ってるの? それに……こっちの都合で体良くキープされた方は辛いと思うし、早く菫ちゃんか杏ちゃんか誰かと付き合って決めちゃえばいいじゃん。それさ──卑怯だよ」
突き放すような言い方をした昴は本気で怒っている。
顔は眠たげで、それでも目は有無を言わせない軽蔑を込めた眼差しで俺へ向けていた。
分かっていたことだ。正論で、ぐうの音も出ない。
覚悟とか、分かるまでとか。
そんな綺麗事を言っていても俺がやろうとしていることは好いてくれる子をキープしているのと変わらないんだと、不覚にも昴に分からされた。
「それは誤解だよ。昴ちゃん。私と姉さんはね、それでもいいと話し合ったんだよ。……花君が私達じゃない人を好きになっても結果だけは無条件で受け入れるって」
「じゃあ……杏が朝出掛けたのって──」
「私と花君が話をする為に出掛けてもらったの」
「うーん……困ったよ。二人がそう言うなら外野から口出し出来ないね。でも──あのね?」
菫と俺にそう言い頬を緩ませやんわりとした。
昴はそのまま俺の背中にのしかかりると耳元で小声になる。
「……悩んでるの分かるけど、私は菫ちゃんも杏ちゃんも好きだから。きっちりしてよね」
真面目な顔でそう俺に言う。
用は済んだとばかりに起き上がって、気だるそうに欠伸をしながら部屋を退場した昴だった。
タッパに入ってたクッキーを全部食べて。
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