第15話 帰宅して

「ただいまー」

「あー、おかえりなさい」

 茜と別れて我が家に帰宅すると、気だるげな返事が聞こえる。

 玄関から出て、居間のソファに体育座りしながら携帯ゲームをしている昴が視線を俺に向ける。

 なんだよ?

「……?」

「デートじゃないんだね」

「いや誰とだよ、違う。それより見えるぞ」

「うげー、それを堂々と妹に言うお兄ちゃんもどうかと思うけどね。あと兄妹でも立派なセクハラだよ?」

 そう言いながらも正すことはせず、その姿勢で昴はあーだのこーだの言いながらゲームに熱中している。

 俺は毎回なので、言うことを諦めて冷蔵庫の飲み物を取って2階に上り、ため息。

「……まさかもうデビューしてるなんてな」

 部屋の扉を閉めて、ペットボトルの麦茶を飲みつつ勉強机の引き出しから取り出した学習帳をマジマジと見て、2回目のため息が溢れた。

「何してんのかな……俺」

 飲み物を机に置いて、学習帳を持ちながら脱力したようにベッドへ寝転んだ俺。

 手に持っている学習帳を開いて、眺めては唸るしか出来ない。

 茜が黙っていたのは気を遣ったからだろう。

 啖呵切って、激励したあの時。

 1年前に漫画家になりたくて、でも踏ん切りがつかなかった少女から譲って貰った学習帳には手書きの漫画が全87話がある。

 紙がくちゃくちゃになるほど描いては消してを繰り返して、時にはノートの端の方に小さく描いたりして出来上がった漫画。

 俺と茜が知り合う切っ掛けになったその一冊と部屋の片隅で埃まみれになった絵画スタンドの掛けた絵を見て、またため息が漏れた。


[自分の心を形として残したい気持ちを 今遺さないと気持ちが薄まって何も残らない]


 自分で吐いた言葉が耳元に残っている。

 間違いはなかった、でも違っていた。

 俺は心を初めから形に出来ていなかった。

 分かっていただけだった。

 その絵に描かれていたのは時雨崎姉妹、昴、橘、楠、そして草壁茜だった。

 そこに霞花子はいなかった。






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