第11話 いつもニコニコバッティング
時雨崎姉妹との買い物を終えた翌日の金曜日。
放課後、前日に予定していた茜との約束。
川越まで電車で揺られること数分。歩くこと20分。
川越街道を雑談しながら歩く間。
「何かあったのか?」
隣で歩いていた茜は唐突にそう言う。
前日からモヤモヤしたままの俺は何もないとだけ言い、自販機で買ったアイスを舐めている。
「まぁ……いいけど」
そして目的地に辿り着いた二人は入口手前にあるカウンターで学生料金の700円を払う。
ニコニコかっ飛ばせバッティングセンターの店長でもあるアゴ髭が特徴の仏頂面のオジサンは顔見知りな為、軽く相槌をしてスポーツドリンクを奢ってもらった。
迷彩柄の上着、カーゴパンツ、頭には虎の顔がデカデカとプリントされた帽子を深々と被っている。
スポーツ新聞を片手に聞いているのはクラシックとアンバランスな感じ。
背もたれがない回転する椅子に座り、回っている。
お礼を言って中に入る茜と俺はそれぞれ近くのホームに入って準備運動を終えてバットを掴む。
俺達以外は人が疎らで数人しかいなかった。
発射ボタンを押し、構えて玉が来るのを待つ。
「何かあったんだろ? 言えよ。あたしがモヤモヤする」
「ごめん。さっきは誤魔化してたけど──俺、告白されたんだ」
機械に打ち出された玉をフルスイングで打ち返して、俺はモヤモヤした感情を吐き出した。
隣で金属の乾いた音がして振り向くとバットを手放して放心している茜が目を点にさせて花子を見ていた。
「そ、そうか。うん?良かったじゃね?」
何故、疑問系なんだ。
「あたしが知ってる奴か?」
名前を言うのは違う気がして悩んでいると停止ボタンを押して、茜ら面倒くさそうに髪をワシャワシャしている。
「うん、知っているよ」
「……どうせ杏の奴だろ?」
なんで知ってるんだよって顔を俺がしていたのか、茜が呆れた顔でバットを掴み直し、ボタンを押して構える。
「そりゃ、あんな好き好きオーラ出してたら、な」
好き好きオーラとはなんぞや。
「今困ってる」
「はぁ?」
気持ちの良いノック音とドスの効いた声。
茜が打ち上げた玉は見事に的に当たる。
「……好きか、嫌いか、だろ。煮えきらねぇな。やめだやめだ! 休憩室行くぞ、ハナ」
両方の停止ボタンを乱暴に押してバットを戻すと茜は俺の手を掴み、荒っぽく歩く。
休憩室のベンチに座らされ、茜は無言で中に入ると直ぐに出てきて、何かを投げられた。
慌てて掴むとキンキンに冷えたカフェオレだ。
「飲めよ。それでどうすか決めてないんだろ?」
自分がスカートなのを忘れてるのか、大股で俺の隣に座り、胸元のボタンを数個外して自分のカフェオレをごくごく飲む。
俺はお礼を言い、頷いてちびりちびりカフェオレを飲みながら考える。
「好きか、嫌いか──。好きだよ。でもそれは異性としてかは少し違う気もする」
「……」
「異性として好きかどうかが分からないから断ったんだけどね」
茜は無言で話を聞いている。顔は赤くなったり、青くなったりしていた。
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