第9話 ゾンビってイイネ!
おいおいおいおいおいおい!!
何回おいおい言うんだよって感じだが俺の内心に燻っている感情を表すのなら今はこんな感じだろう。
人生で初の告白をした杏の変わりようは心臓にすこぶる悪い。
今までの態度はなりを潜め、チラチラと俺を見ながら菫ちゃんから見えない位置でぎこちなく笑ったりする。
その様変わりを想像出来なかっただけに、俺も微笑みを浮かべ続けて菫ちゃんに不自然に思われないよう対応している。
こんなにも顔の神経が稼働しっぱなしなことは経験したことがないので後日、筋肉痛になりそう。
こうして、買い物が終わりフードコートでたこ焼きを食べながら俺は、菫ちゃんが目を輝かせて袋から出したものを見て、食べていたたこ焼きを口に入れたまま無意識に真顔になっていた。
ゾンビの被り物だ。しかも妙にリアルである。
「この完成度、質感は妥協としても……いい!!」
今にもムフーとか言いそうなドヤ顔。そしてご満悦である。
「あの菫さん……?」
女子高生がゾンビマスクを恍惚の眼差しで見ている異様な光景に、つい敬語で話し掛けた霞花子はやっちまったと後悔する。
「分かるよね!!花君もそう思うよね!! このグロい血糊や今にも皮膚がこぼれ落ちそうなディテール。学生にも買える安価であっても妥協しない作り込みに私は感動してるんだよ!」
「うん!!そ、う、だ、ねー!」
菫ちゃんはゲームが好きだ。
だが「剣と魔法の王道ファンタジー系」じゃなく、「銃とかナイフ、血と硝煙のミリタリー系」が好きなのだ。
特にゾンビがすこすこである。
ゾンビが出るなら映画でもゲームでも全部見るし、やるくらい大好きさん。
この状態の菫ちゃんを俺はゾンビバーサーカーと呼称していた。
だって、ゾンビ推ししてくるし、こっちの話しを聞いてない上に、懇切丁寧にゾンビについて熱く語ってくる。
普段は大人しくて、美人な上に家事が上手、ゲームが好き。
オタク男子なら垂涎物の美少女だが、ゾンビ好き。しかもゲームでは対人戦だと豹変するほど怖いのだ。
思い出すのはこの間、最近オンライン対戦した相手があまりにも遠距離からのタイムアップ狙いで酷いプレイをしてて、キレた菫ちゃんが筋肉ダルマのキャラクターでひたすら無敵時間がある攻撃で近付いて、相手をハメながら投げ技でボコボコにして笑って怒っていた。
確か「はぁ……遠距離の小出しのみで魅せコンや普通のコンボも決められない、チキンプレイしか出来ないのならとか、 お粗末なプレイを晒して楽しいのかとか、 ソリティアやりたいの?とか」
しかも最後にチャットで文句を言ってくる相手に無言でマナー違反の死体蹴りまでやってしまう始末に、隣で見ていて青ざめていた俺が止めたのは最近だった。
気持ちは凄い分かるけど、一線だけは引こうと言うと昔みたいに頬を膨らませて拗ねてる
。
話が脱線したが、それを含めて時雨崎菫ちゃんは今日もゾンビが好きだ。
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