第8話 杏の諦めない気持ち

 目の前で泣いていた杏。俺はどうしてこうなのだろうかと手を滅茶苦茶右往左往させてかなり焦る。

「い……だっ」

「え……?」

「いやだ……。なんで断るの……私は酷いことしたけど、なんで、はな?」

 なんでなんだよって来ると思っていただけに、この反応は凄い良心を抉りにくる。

 俺は女の涙に、弱いんだろう。

 今の杏は可愛すぎて正直、この場でやっぱり嘘と言いたい感情になるのが辛い。

 だが、ここは言わなきゃならない。俺はなけなしの理性を奮い立たせ、今は誰とも付き合うつもりがないことを伝える。

 昔からそうだ、杏は泣いたり泣きそうになるとこうなる。

 いつもは威風堂々って感じなのにギャップが凄い。

「杏、分かってくれた?」

「分かったけど、分からない……」

 いやどっちやねん。

「花は昔から狡いし、へタレだし……でも優しくて、何だかんだでお節介だし。でも私はずっと好きでいる、迷惑?」

「……」

 貶されてるのか、褒めるかどっちかにしろ、ああ!!もう!!可愛いな畜生!!

「いや……迷惑、じゃ、ないけど」

 意識した途端に顔が熱くなるので、そっぽを向いたまま、言う。

「じゃあ決定ね……」

「……」

 泣き腫らした顔で笑う杏とドキマギする俺。そしてそんなやり取りを菫は店内から隠れて複雑な気持ちで見ていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る