第10話 災禍は魔獣とともに
この世界に来て5年が経った、季節は後春、地球での5月にあたる、なにをするにしてもちょうど良い天気と暖かさに思わず森の散歩に行ってしまいそうだ
いよいよ俺ことミレイはこの世界にて15歳の時を迎えた
こちらに来たばかりの時は幼さが残った顔つきだったけど今では精悍さも見られるようになったし、日々狩と鍛練により体も引き締まってきた
「ミレイ、まずは成人おめでとう 森の民として明日は狩の儀を行なって1人前になったことを証明してもらう」
ミルダンから昨晩伝えられた内容に気を引き締める
この世界にて15歳とは成人の歳だ、ウルの森に住まう森の民にとってもそれは同じ事、であるが森の民として1人前として認められるには1つの試練を乗り越えなければならない
その試練とは"狩の儀"と呼ばれる試験で単独でウルの森に入り、成長を見せるための成果を上げる事
通常、魔獣など不足な事態に備え狩は複数人で連携するのが基本なのだが、この試練では狩が単独でも行えるか起き得る事態に対処出来るかを試される
そこまで深くは行かないので大体は問題なく戻れるらしいが、運が悪ければ死んでしまうこともあるので油断はできない
いよいよ今日この時、俺はその狩の儀を行う事になったのだ、今回の狩のスタート地点まではパートナーと一緒に向かう、パートナーはそこで不足の事態に備え待機をする流れだ
そのパートナーはもちろんクルルだ、クルルも2年前よりもぐっと大人っぽくなり淡い金髪を今ではツインテールにまとめて愛らしい笑顔を振り撒くようになった、弓の腕もいつのまにか俺より上手くなっていて3本掛けなどの離れ業まで使う、魔法も生活魔法から回復魔法まで使いこなすようになっていて頼もしい相棒である
ちなみに俺は生活魔法しか未だ使えない、覚醒すれば使えるのかもしれないが、まぁ剣術もそこそこ使えるのでそこは前向きに考える事にした
(この後、物語ではミレイは狩の儀を無事終えて一人前と認められミレイの真実を父親であるミルダンから打ち明けられて、その後皆んなに送り出され旅立つとかそんな感じだったな)
とにかく今の俺の実力なら問題はないだろう、ぱぱっと済ませてもどるか
「お前なら問題ないと思うが油断するなよ」
「ミレイにロキ様と光の精霊様のご加護を、クルルちゃん、あとは任せましたわ」
「了解ですっ! ファナ様っ」
早朝、ミルダンとファナに見送られて俺達は出発した、試練を目的とした森はそう離れていないので30分程歩くと森の入り口に到着した
「じゃ、ミレにーここで待ってるから 大丈夫だと思うけど気をつけてねー」
「おぅ行ってくるわ、入り口とはいえクルルも油断するなよ」
軽めの挨拶を交わし俺は森に入った、この辺りは普段から来ているので問題はない、しかし獲物の気配が辺りにしないので様子を見ながら奥まで入り込んでいく
「ここいらならどうだろう?」
30分程歩き森の中頃に差し掛かる辺りを警戒を強め歩くが普段なら当たり前のようにそこかしこガサガサするものだが一向に見当たらない、いや...... 気配はあるが鳴りを潜めていると言った方が正しいかな
「なにかでかい獣でもいるのかな?」
熊などがいるときは今のように静かになる時はある、まぁそれくらいなら今の俺でも対処はできるがそれにしてもちょっとおかしいな? 試練ならだいたいこの辺りまでで良さそうであるが獲物も見つからないし、様子もおかしいのでもう少し進んでみるか
「やっぱりなんかおかしいな......」
暫く進み森の中頃から奥に差し掛かった、ここいらの獣は1人ではちょっと厳しいうえ魔獣なども現れるので、鉢合わせないよう用心して辺りの様子を伺ってみたがこちらも同様に静かだ
(......なんだ? なにが起きている? 魔獣にしては異様な感じがするし1度戻って報告してくるか)
そう判断した俺はクルルの所に戻ろうと背中を向けた時 ゾクっと背中を悪寒が走った
俺は恐る恐る奥に向き直り、腰を落として奥を細目でじっと見やると奥からなにかがこちらにゆっくりと向かってくるのが見えた、遠目には禍々しい黒い靄の塊のように見えたそれは、その場で様子を見て視認できるとこまで来ると熊だった
まだ100メートル以上離れているのに距離感がおかしい程デカい、恐らく3メートルほどあるか? こんなの今まで見たことないぞ
それにあの熊の通った後、禍々しい靄のせいか木々が腐ってる、あの纏った靄に溢れ出る殺気といい、相手をしてはいけない気配がする
(......これは 昔1度感じた事がある気配)
俺は暫くそこで考えた、これはエリス...... 彼女と対峙した時に感じた気配に似ている......
と言うことはっあれはまさかっ
——災禍の魔獣——
えっ! なんでこんなところに?
(どう思い出しても俺はこんなところで出くわす設定にはしていない ——狩の儀では普通に獣を狩って終わりじゃなかったか?)
突然の事態にどう対処したらいいか頭が追いつかない、今の俺が挑んで対処できるのか? ......いや 災禍の魔獣には戦姫か、率いる英雄か威力のある魔法かいずれしか攻撃が通用しないはず ......英雄の加護も正式に得られてない今の俺では力足らずだ
——災禍の魔獣を見かけたらまず逃げろ
不意にミルダンの言葉を思い出した、そうだこのままだと村に向かって来てしまう
(——知らせなければっ)
俺は気付かれぬよう気配を押し殺しその場を離れた、そして出しうる速度で来た道を引き返した
「ミレにーっ‼︎」
「クルルっ」
森の中頃を突っ切るように走ってると、クルルが正面から慌てて走って来た
「なんか怖い気配がしたからミレにーに知らせなきゃと思って追って来たんだけど」
「クルルっ説明は後だ! 魔獣が ——災禍の魔獣が出たっ」
「じゃ、この気配って...」
「いいからっ ——とにかく戻るぞ!」
俺達はとにかく急いで森を抜け村を目指した、この丘を抜ければもう村だ、奴が来るまでまだ余裕があるはず、早く知らせなくちゃまずい事になる ——? 煙?
「ミレにー待って 村から煙が出てるよっ」
俺達はやっとの事で村付近に戻ったが異変を感じ村を一望できる小高い丘から見下ろした
「村が襲われている? 結界が壊されたのか? それになんだあの数の魔獣は」
「助けに行かないと‼︎ 家も壊されて倒れてる人もいるっ!」
ウルの村は場所柄危険が多いためすぐ異変がわかるよう村の周りを大きく切り開いておりその周りを囲むよう魔獣よけの結界が張り巡らせている、それが数の暴力によりいとも容易く薙ぎ倒されていた
そして村は今現在100を超える夥しい魔獣によって襲われていて、ところどころ火の手が上がり倒壊した建物や倒れた森の民に群がる魔獣などが見えた
(獣であればまだどうにかなったがこの魔獣の数だ、小型とはいえこれだけの数を相手にしてはどうにもならない)
俺達はすぐさま丘を駆け降り魔獣を切り抜け村に戻った、村を見渡すと所々の家屋が壊され火の手が上がり、地面には大量の血溜まりや力尽きた森の民に魔獣が群がって食い散らかされていたり、誰のものかわからない手足などが無造作に落ちている
(......こんなの 平和な日本で暮らしてた俺じゃどうにもなんねぇぞ あぁくそっ ミルダン達は何処だっ?)
「ミレにーあっち‼︎ 村長の家の方っ」
周りの光景に目が眩み、怯んで立ち止まりそうになる足を叩く 心を落ち着けようとした時クルルが叫んだ
急ぎ俺達はそちらに向かうと一際大きな怒号が飛び交っていて、そこでは1番大きい建物 ——俺の家の周りで皆が囲むようにして戦っていた
「父さんっ! 無事ですか? 母さんは?」
「ミレイっ ——よく無事でいてくれた! クルルっ中で怪我人の治療とファナを見てくれ!」
「村長 わ、わかりましたっ」
指示を受けたクルルは建屋内にいる怪我人の治療に向かった、母さんも怪我をしたのかもしれないがここにいる事に俺はひとまず安堵した
「突然森から湧いて来やがったんだ お前が戻ったのは光明の1つだ、ミレイとにかくこいつらなんとかするぞ!」
「状況は丘の上から理解できましたがしかしこの数では......」
「——早いうちから城には救援の鳥は飛ばした 急ぎ来てくれることを祈るしかないが、それまでなんとか凌ぐしかない」
「父さん魔獣だけではないのです ——森の奥から災禍の魔獣が来ていますっ 一刻も早く避難を」
「——なんだとっ! ではこれはそいつの影響か?」
恐らくこちらに向かっているヤツの影響で魔獣化やスタンピードが起きていることは明らかだった
今この時も方々から猿や鳥のようなものだけでなく狼などの中型サイズの魔獣までもが止めどなく村に入って来ている、俺は避難している人や怪我人がいるこの建物に近づかせないよう迎え撃ったが魔獣の数が多すぎる
撃ち漏らして建物に突撃しようとするヤツもいたが幸い今のところは魔法に長けた女性陣によって建物は光の結界で守られているらしく被害はないがいつまで持つのかも耐えられるかもわからない
(......はやくこいつらをなんとかしないとあいつが来ちまう)
四方八方から飛び交う魔獣に思案することすらさせてもらえずに俺は無我夢中で弓を使い剣を振り下ろし続ける、だが数の暴力は凄まじく周りでは仲間たちが1人また1人と倒れていった、それを助ける事もできないまま永遠と思える程の攻防を繰り返しひたすら戦い続けた
時間にしては数時間だろうか? やがてそうして纏まって向かってきた魔獣も数を減らし始めると今度は散り散りになって逃げ惑い始めていた
「ふぅー な、なんとか凌いだか? 父さん達は......」
気力も体力も尽きる程で歩くのもやっとなのだがその場で辺りを一度見渡すと多くの森の民が魔獣と共に倒れていて辺りは血の匂いで充満していた、そして生き残った者は皆、疲労困憊と辺りの凄惨な状況に呆然として座り込んでいる
少し離れたところにミルダンはいて、あちこち怪我をして片膝をついているが無事なようだった、いつのまにかクルルも表に出て要撃していたようでふらふらになりながらも表の怪我人に声を掛けてまわっている
「父さん大丈夫ですか?」
「あ、あぁ なんとかな...... 残党もまだいるかもしれんしまた群れでくるかもしれん 状況を確認してくるから、お前はとりあえず母さんに顔を見せてこい 話はその後だ」
そう声を掛け頷いた俺の頭を撫でふらりと立ち上がったミルダンは周りの動けそうな人に声を掛けてまわり生存者を呼びかけ始めた
迫り来る最も恐ろしい脅威に焦りが募るがひとまずファナに声をかけるために中に入りリビングに向かう
寄り合いなどでも使う我が家のリビングはとても広いのだがそこには多数の避難者と意識のあるものないものの怪我人が横たわり、ごった返していた
「......ミレにー ファナ様はこっちだよ」
ファナを探すべく辺りを見渡すと見当たらない、そうこうするうちにクルルが戻って来て伏し目がちに俺の袖を引きながら声を掛けて来た
どうやらファナは奥の部屋にいたらしい、怪我をしているみたいだが生きてる事にひとまず安堵し、クルルに連れられて奥の扉を開いた俺はその後愕然とする事になった
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