第8話 2年後への約束

 王国滞在3日目


 時刻は現在朝方の4の鐘の少し前、深夜と早朝の狭間の時間帯、まだ暗くひんやりとした空気が漂う城下町を俺は歩いている、当然辺りの往来はまだほとんどない


 今現在俺は宿屋をそっと抜け出しアスカル...... いや、朱鳥と落ち合うために共同墓地を目指している、こんな時間に墓地なんて不気味なとしか言いようがないがここを指定するのにはなにか理由があるのだろう


 やがてほぼ鐘の音が響く頃合いに墓地に到着した、辺りを見渡すが朱鳥はまだ来ていないようだ


 虫の声とどこかで犬が鳴く声以外全く音がせず薄暗くて墓しかない場所をぼぉっと眺めていると何故かテレビで昔はよくやっていた心霊特番を思い出し、だんだん心細くなってきてしまった


 なんとなく背後から人の気配を感じたので恐る恐るそちらを見やると少し離れたところに他の墓と雰囲気の違う造りの良い墓があった、どうやら気配はそこにあるのだが目をこらしても誰がいるでもない

(まさか、出ないよな......)


 ドゴンッ (ヒッッ)


 そんなことを考えながらじっとその墓を見つめていると何の前触れもなく墓前方が勢いよく開いた

 

 いきなりな事にビビッて背中を向けて逃げようとした時にそこから朱鳥が顔を出してきた


「お待たせ......」

「おぅ...... いや、なんでそんなところから出てくんだ...... うぉっ」


 突然の事にとりあえず文句を言おうとした矢先に朱鳥がタックルまがいに飛びついてきた


「玲くんっ! だよね?」

「ああ......」


「ほんとのほんとに玲くんだよね? 夢じゃないよね?」

「ああ...... 中身は本物の俺だよ、立ち合いで分かっただろう?」

 

 ぎゅっと抱きついたまま、上目遣いで何度も俺の事を確認する朱鳥に安心するよう優しく答えた 

 (淡い金髪に透き通る青い瞳の朱鳥は新鮮でなんかドキドキするな)


「しかし、なんでこんなところから出てくんだよ」

「ここは王城の緊急用の通路の1つなのよ、それに玲くんが誰もいないところでって言ってたからここにしたのよ! 結構怖かったんだからね!」


 感動の再会も墓地の前だと半減するので、少し場所を移そうと提案し墓地近くの小さな公園でひとまずの無事を喜び合った


 その後はベンチに2人並んで腰掛けこの世界に来てからのことをお互いに話し合った


「そうか...... 朱鳥もこの世界の事も何も知らないのにいきなり放り出されてしかも王女になっているなんてな」

「何もわからずにいろいろ怖かった...... のが本音だけど、いつか絶対玲くんを見つけるって気持ちも強かったから諦めずになんとかやってこれたかな ううん...... 正直やっぱり限界も近かったけどね」


 朱鳥はこちらの世界で俺と離れ離れになったあげくに第二王女アスカルとして目覚めたそうだ、突然起こった事態になんの事情も分からない不安、それに一緒に落とされた俺が行方知れずとなった事で数ヶ月は相当憔悴して危険な状態だったらしい、そして日に日に弱るアスカルに王族関係者は事態が全くわからず相当慌てたらしい


「そりゃいきなり右も左も分からないとこにいて、誰のことも知らない世界で暮らすなんて事になったらどうなってしまってもおかしくはないよな」

(きっと賢い朱鳥なら俺のラノベを先に読んでいたなら早いうちから上手く立ち回れていたかも知れないな)


 そんな事を考えながら朱鳥の話に共感し俺は頷いた、朱鳥は俯き気味に気持ちを整理するように少しずつ話を続けていく


「でも、落ち込み切ったある日そこから私は深く考え確信したの、こうなる前に起きた事象、ありえない事柄からのありえない世界での目覚め ......信じたくないけど 別世界に来てしまった事に」


「そしてアスカルと呼ばれる私もまだ幼かったから今出来ることは演じる続けるしかないと覚悟を決めたの、幸いな事にアスカルの以前の記憶は残っていたからね ——そして時が来たら絶対玲くんを探しに行こうと思ったわ」


「そう覚悟を決めてからこの世界で 1年ほどした時かな、頭の中で声が聞こえてきて私は戦姫に選ばれたの ......でもそんなことよりもその声は続け様に私にこう言ったのよ"出会いはいずれ......"って」


 その声が発した内容に当時俺を見つけることができるんだと胸を躍らせたそうだが、その後俺への糸口は一向に見つからずに時が経つばかりの状況にまた心に不安が宿り始めて昨日のように心ここに在らずな感じになっていたらしい


(出会いはいずれ ......か やはり何かの力が働いているのか)


 俺はやはり"何者か"の存在があることを内心で確信した、どうやら仇なすものでは無さそうなのでとりあえず考えを辞めにしてこれまでのことを含めて朱鳥に謝罪した


「巻き込んですまなかった」

「いや私が玲くんを庇ったんだから、その事はいいの ......それよりこれからどうしていったらいいか聞きたいわ」


 俺は改めて朱鳥にこの世界は俺が描いた世界であることや、エリスにより無理矢理招かれた事を物語の大枠を交え説明した


「ならエリスをどうにかすれば元に戻れるのかな......」

「そこに賭けるしかないだろうな、でもあのエリスに立ち向かうとなるとミレイの覚醒した力は必要だと思うし引き出すためのきっかけと戦力としてもそれぞれの国の戦姫を仲間にしなければならないとは思う」


 この世界での俺達はまだ若く何ができるでもない、しかしエリスに立ち向かえる力を得るとなると物語通りにミレイを覚醒させるしかないため不本意だが今は物語通りに進めていき覚醒する条件を満たして行くしかない


「恐らく2年後には俺はまた王都へと向かうと思う、その後はさらに1年後に行われる神讃式典しんさんしきてんで英雄に選ばれるはずだ」

「3年かぁ結構長いなぁ、あっでも2年後には王都で会えるのよね? わかったわ、その時までにエリスに立ち向かえるようもっと強くなるわ!」


「頼もしいな朱鳥は、実は物語では式典のひと月後に1度戦姫が集るんだけどそのタイミングでエリスがその会場に現れるイベントがあるからもし準備が整っていればそのタイミングが元の世界に戻れるチャンスかもしれない」

「そうなのね、分かったわ」


「朱鳥1つだけ...... 朱鳥の存在をこの世界の人に主張するのは出来るだけ避けて、このまま暮らしていてくれ」

「その言い回しだと恐らく世界の異物としてみられてしまうのね?」


 口元に指を当てて少し考えて俺の言いたいことを即座に答えてくれる朱鳥に少し驚いた


「そう、さすが朱鳥だ、現に俺の知り得ない事態もおきているから出来るだけな ......とにかく後2年後まで今のままで辛抱していてくれ ......必ず迎えに行く」

「うん! これでも令嬢だったんだからなんとか演じれると思うし分かったわ、でもやっと玲くんと再開できたのにまた離れるのは寂しいけどそうも言っていられないし、私もそれまでには出来ることはやっておくから絶対迎えに来てね」


 最後に胸の前で拳を2つ並べて頷いた朱鳥は力強く俺を抱きしめてきたのでそれに答えた、折角再会できたのにまた離れる事に後ろ髪を引かれる思いはあった、その気になれば村まで2日程なので会うこともできるわけだがその気持ちはそこで留めておいた


 よくよく思い返すと本来この時点ではお互い顔を知っている程度であった、俺にとっては必要なことではあったけどアスカルと立ち合いするという事は物語上すでにイレギュラーな行いでしかなかった、なのでしばらくはこのまま様子を見て望まない改変がおこらないよう注意しつつお互いの立場を維持し必然的に出会えるであろう2年後に王都で再会することを約束し俺は宿屋に朱鳥は王城へと戻っていった


 宿屋に戻りひと眠りし身の回りの帰り支度をした後、お昼過ぎまでミルダンとクルルと3人でウルの村へと持ち帰る物資を荷馬車に積み込んでいると先日迎えに来てくれた馬車がこちらにやってきて目の前に止まった、何事かと見ていると中にはローブを頭まで被った人が2人乗っていて軽く手を挙げていた


 2人ともローブは取らないがちらりと顔を伺うと第一王女のキリカと朱鳥だった、慌てて挨拶をしようとすると手で制されあさってを向きながらキリカが小箱を渡してきた


「これは?」

「先日の立ち合い、ステキだったわ! これは私からの褒美よ、受け取りなさい!!」

 

 綺麗だが真顔で吊り目の王女に強めの口調で言われたから一種怯んだがどうやら俺にくれるらしい、奥に座る朱鳥が苦笑いでフォローしてきた


「これは姉さんからのプレゼントらしいのでどうぞ」

「こっ! こっ! これは褒美なのよ、いいっ! 受け取りなさいそして身につけていなさいっあなたを守るはずだから」


 慌てながら捲し立て俺に突き出すのでありがたく受け取っておいた、その後窓越しに小さく2人は手を振り帰っていった


 徐に箱を開けると中にはメダルほどの王家の紋章を象ったネックレスが入っていた


「ほぉ、ミレにーそれには魔力が宿ってますねぇ」

「どれどれ ......うぉ 紋章入りじゃねぇか」


「父さんどういうことですか?」

「それは王家に認められた物がもらえる由緒ある品だぞ、身につけていると災いを防ぐらしいし王国の出入りも顔パスに近いしな うーむよっぽど気に入られたなぁ」


「そこまでの品物なんですね? 驚きました」

「まぁ、まず余程ではないと貰えんな」


 そんな物貰って大丈夫かなぁと思いながら、ずっと気になった事をミルダンに聞いてみたところミルダンは昔を懐かしむように語り出した


「ところで父さん、王様と親しそうですが何かご縁が?」

「あぁその事か、昔王様がウルの森の浅いところで狩をした時にうっかり奥に入りすぎたらしくてな、そんな時に限って滅多に出ない大型の魔獣に出くわして襲われ護衛をほとんど失ってしまった」


「その時に事態に気付いた俺が助けに入った なんとか救い出して話をしているうちに意気投合しちまったんだ、毎回こっちにくると2人でこっそり飲んでんだぜ」

「なるほど、通りで謁見もフランクな感じだったんですね ——あっ父さんそろそろ積み終わらないと予定通り出れませんよ」


 俺は話をそこで打ち切りにし積み込みに戻った


(まぁ今の話は半分真実で半分出鱈目だけどなぁ、今話す事ではないからお前がひとり立ちしたら話すからな、まぁ今回は特別なお前に会うことが目的だったし予定外に面白いものが見れたな)


 ミルダンは内心を口の中で呟きながら暫く俺を眺めていた


 昼過ぎには積み込みを終わらした俺たちはウルの村へと戻るため城下町を後にした、帰路は獣には出くわしたが大した問題にはならず行きと同じようにウルカ村をそのまま抜け2日後の昼過ぎには無事ウルの村へ戻ることができた


 こうして初めての王国を体験した俺は、2年後に朱鳥に再び会うためとエリスに立ち向かう力をつけるために森の民として暮らし鍛練をつづけていった

 

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