第7話 謁見と戦姫と邂逅

  王都に滞在し2日目の朝を迎えた、少し早く目覚めてしまった俺はベッドから降りて眠い目を擦りながら背伸びをして窓から外を眺めた


 まだ日が出始めたばかりなのに行商の馬車や人の往来がすでに始まっていてさすが城下町だと思ったが、それよりも昨日も見たが改めて行き交う人々を見て感嘆した


「......色取り取りだな」


 そう、濃淡はあるが赤 緑 紫 青 茶 金色の髪色が混ざり合ってなんとも言えないコントラストを醸し出していた


『髪の色はそれぞれの国で信仰している精霊さまの影響だからねー ミレにーは初めて森から出たからビックリしたでしょ』


 なんてことを言いながら起きてきたクルルがおはようと声を掛けてきた


 髪色によって国籍が分かりやすいようそうたしかに設定はしたが、実際見るとカラフルとしか言いようがない


「クルル、謁見は何個の鐘だっけ?」

『10の鐘だよー』


 今日は謁見の日だ、こちらの世界の1日の時間も24時間で鐘を打つ回数で現在の時刻を表し1時間ごとに1回から12回まで鳴らしていきその後は1回からに戻りまた12回まで鳴らしていく、謁見は10の鐘なので10時くらいとゆうことだ、これも時間に縛られない森の民としては新鮮であり俺にとっては久しぶりの感覚ではあった


「少し早いけど、父さん起こして朝食出してもらおうか?」

『いろいろ準備もあるからそうしよーか! 私起こしますっ! そーんちょー』

「——ぐほっ」


 クルルはそう返事するやミルダンの眠るベッドに膝からダイブしていった......


「クルル ......起こすときは普通にたのむな」

『わっかりましたー』


 一頻り悶えたミルダンはようやっと起きてクルルに諭すよう訴えていた ——まぁあれは確かに痛いわな


 3人で朝食を済ませ、その後、町向けの普段着から謁見用の衣装とゆうか森の民の民族衣装に着替え、ウルの反物からしつらえたローブを羽織ってその着心地に感動した、上質な絹のようにしっとりと艶があるウルの織物は適度な厚みがあるのに軽い、仕立ての良さも相まって適度な華美さが出ていて着るだけで位が高く見えるようだ


 ミルダンとクルルも民族衣装であるが、今回は俺のお披露目的なものもあるので、控えめな衣装のようだ


「ミレイ まぁお披露目的な物ではあるが緊張しないで普段通りに対応していればいいからな」

「分かりました父さん」

『私もフォローしますからねー あっ そろそろ王城に向かうお時間ですよー』


 王城での最低限のマナーなどを確認し、少し余裕を持って王城に登城しようと宿を出る


 何も聞いていなかったが王城まで結構あるから馬車でも頼むのかと考えていると、俺たちの前に一台の品のある馬車が停車し、執事のような男性が降りてきて一礼してきた


[森の民のお方ですね? 使いのものです、送迎の指示を賜りましたのでお迎えにあがりました]

「対応感謝する」


 そう短いやり取りをしさっさとミルダンとクルルは乗り込んでしまった


「えっ? 父さん僕たちがお伺い立てるような感じなのでは?」

「まぁそこはなんだ ……とにかくミレイも早く乗りなさい」


 微妙に噛み合わないやり取りだが、首を傾げながら俺も乗り込む事にした、その後馬車はゆっくりと王城に向かい始めた


 と言っても街道を出れば長い石畳が続く道を真っ直ぐ行けば着くのではあるが時間にして20分程揺られると内縁城壁に辿り着き、その城門を潜ると街並みは広い庭があるでかい屋敷が整然と並ぶ貴族街へと一変した 


「なんか空気感が違うな」

『だよね、あたしもこっちにいる時は慣れるの大変だったなー』


 クルルとそんなやり取りをしてるうちに高級住宅街のような貴族街を抜けて大きな堀に囲まれたヒランドリー王城にたどり着いた、

王城入り口前に止まった馬車から降りた俺たちを今度は位の高そうな騎士の人から謁見の間へと直接案内された


 ヒランドリー王城は外も中も白を基調としさりげなく金をあしらった豪奢ではなく品のある作りで時折飾ってある品は全てシンプルな物であり、贅を尽くさない王の好みに俺は好感が持てた


[こちらです、すでに皆様お待ちになっております、どうぞ]


 暫く歩くとやがて1つの部屋の前にたどり着いた、案内役の騎士さんに促され扉の前へ立つとゆっくりと扉は開きはじめた


[森の民 ミルダン様御一行到着しました]


 その声と共に謁見の間へと俺たちは入った、適度に華美な部屋は広さを抑えた造りであり国賓用ではなく、御用商人や王に近しい人向けの間なのだと俺は感じた


 入り口から続く赤い絨毯の先は低めに3段になっており上段にはもちろん玉座があり王と両脇に宰相であろう人と司祭服を纏った男性が、その一段下の脇には華やかなドレスを着た女性陣が立ってこちらを見ていた


 王の前に向かうため絨毯を歩く


 途中であろうことかマナーなどふっとんでしまったが王の前に来て片膝を立て、跪いたときありがたい事に王の方から声が掛かった


「硬い挨拶は良い ミルダン久しぶりだな」

「配慮感謝します 陛下」


「うむ、妹は元気でやっておるか? たまには顔を出せと伝えておいてくれ」


 妹? どうやら知己らしいのかな? 接し方がフランクだな


「で...... その者がそうなのだな?」

「ミレイと申します お初にお目にかかります」

「うむ ワシがヴァイス王国 イオン・クラリス フォン ヴァイスだ ミレイよろしくな!」

 

 頭を下げ自己紹介をすると王は柔和な笑顔で気軽に返事を返してくれた、そしてこちらはと続けて女性陣をちらりと見やり紹介してくれた


「王妃のレムと王女キリカとアスカルだ」


「私が王妃のレムよ ミレイ君よろしくね! クルルもお元気そうでなによりよ」

「キリカ 第1王女よ」

「第2王女アスカルです」


 王の紹介の後、王妃様、王女様が順番に答えてくれた、どちらもとても綺麗である事は言わずもがなだが王妃様は母性溢れる感じだが、キリカ王女はやる気スイッチがいっぱいありそうな勝ち気で近寄り難い感じがした、どうやらクルルは側仕え見習いだったのか知己のようだ


 戦姫だけあり1人だけ違う空気を纏うアスカルは、表情のない顔でじっとこちらを見つめていた、心なしか感情の希薄が瞳のハイライトに現れていて薄暗い感じがした


「宰相のジグだ」

「枢機卿のロイディです こちらがかの少年なのですね」

「はい ......まだその兆候はございませんが」


 宰相に続いて挨拶し、含みのあるやり取りをする枢機卿とミルダン あぁ、神の子の話かぁ、ミレイは"神に愛されし子"だからなぁ ......いずれ神讃式展しんさんしきてんで公になる話だからな、まぁ今気にしてもしょうがないか


気になるやり取りもいくつかあったが 暫し近況や会話を楽しんだ後、いよいよ僕は真相を探るための話を切り出した


「皆様、改めてよろしくお願いします ところでアスカル殿下は戦姫なのですよね?」

「......そうよ、選ばれて数ヶ月程ですが」       


「ですが城下ではすでにとてもお強いと噂話で聞いております」 

「......まだ若輩の身です」


「ご謙遜を ......実は将来ウルの村の長を継ぐ身として、村を守るために鍛錬は欠かさないのですが技術の壁を感じてまして、この機会に良ければお相手をしてご教授頂ければと」


 出来る限り当たり障りなく提案してみたつもりだ、アスカルは少し逡巡した後、王の方に向いて可否を伺っていた


「ほお、ミルダンよりその歳にはない才覚があると聞いている、立ち合いならお互い得るものがあるだろう」

「......分かりました お相手しましょう」


 王は快く立ち合いを承諾してくれ、アスカルもそれに従い返事をしてくれた


 その後、謁見を終了し立ち合いのために騎士団訓練所に移動した、謁見に同行した人たちも一緒だ


「ミレイ、本当に大丈夫か? いくら夜鍛錬してたとしてもちょっと心配だぞ」

「えっ! 気づいてたのですか?」


「当たり前だろう! 夜な夜な家を出るのだから心配しないはずがないだろう、まぁ鍛錬なのは分かったから口は出さなかったがな」


 ミルダンにはどうやらバレていたらしい、でもこの世界の人に技を見られてもエリスに存在がバレることがないみたいなので一安心した、そういえばアスカルも使っているだろうしな


 準備運動をしていると用意の終わったアスカルが騎士団長であるビルクさんと共に訓練所にやってきた、どうやらビルクさんが立ち合いを見てくれるらしい


「私の準備は大丈夫です」

「僕も大丈夫です」


 お互い準備ができたことで中央にて対峙する、立ち合いなのでもちろん真剣ではないが、アスカルのそれは明らかに日本刀を意識した木刀であった


「1つ...... 加減が難しいのでご容赦を」

「遠慮なさらずにどうぞ」


[では双方 ——始め]


 その合図を皮切りにアスカルは半身をずらし腰を低くし独特の構えをとった、やはりそれは嘉納流剣術のそれであった、構えに見とれているうちにアスカルが飛び込んでくる


「ふっ」

「うぉ はやっ」

 

 俺は様子を見るために暫く受けに回ることにした、余裕をもった言い回しだが結構紙一重である


 そもそも嘉納流剣術は古流武術の流れを紡いでいる、それすなわち実戦を意識した殺すための技、その技とキレは木刀であれ容易に人を殺められる程のため内心ではヒヤヒヤで一太刀を受けることになった


「えっ!!」

「————」


 一頻りギリギリの受けを行った俺はアスカル、いや"朱鳥"に技で伝えるために、表に対する裏の技の合わせを行った、裏の技を朱鳥は知っているが会得しているのは俺だけである


 一連の型合わせのようなこの攻防にこの時点で既に立ち合い役のビルクも観戦している全ての者が目を奪われている


「嘉納流 ......裏の型 ......!!」

【そう ——その通り そのまま続けながら聞いて】


 そう理解したアスカルの瞳はいつのまにか光を取り戻していて、立ち合いを辞めようとしたがそれを小声にて呟き続けさせる


【明日どこかで会えないか? 人目のないところで】

【分かりました ......では朝方の4の鐘に城下町共同墓地にて】

【今はこのままで事情はその時話すから】


 お互い剣戟を繰り返しながら、小声にて約束を交わし、その後引き分けを演じて固い握手を交わし立ち合いを終了させた、立ち合いとはいえ国を代表する戦姫と並ぶ攻防に観戦している僕は惜しみない拍手を受けた


 その後、王族の人たちが見送ってくれた時にはアスカルの顔はあの頃の飛鳥の顔に戻っていた


 ——朱鳥にのみ存在を知らせる俺の作戦は成功してひとまず安心した


『ミレにー凄かったよぉ‼︎』

「正直、俺も驚いたぞ なんだあの技は?」


 王城からの帰り道も同じように馬車で送ってもらった、車内でニマニマしている俺に興奮冷めぬ2人から質問攻めをされたので誤魔化すの苦慮してしまった


 俺はお忍びではあるが行方知らずだった幼なじみの無事の確認と久しぶりの再会に胸が高鳴りワクワクして眠れずに明日を待った

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