第6話 城下町と手がかりと

 この世界に来て3年の月日が経った


 こう書くと長く感じるが自然の流れに任せる森の民は、明るくなったら起きて働き暗くなった寝るに近い習慣なので時を意識する感覚自体があまりないため気付いたらと言ったところか時を忘れそうになる


 夜明けか日暮れでも数えていればいくらか参考にはなるだろうが、そんな事は到底やってられないがなんとか月日を把握することはできた


 さて13歳になったミレイは体つきも少し逞しくなり弓の腕もさらに上達した、今ではちょっとした大人顔負けにまではなったと思う


 最近では村長の息子であることに加えて以外に冷静な判断が行えることと弓の腕も相まって村付近での狩やミルダン不在時は村の守り手の中心にも抜擢されるようになった、少し早いような気もするのだが、おかげで皆んなからの信も少しずつ得られるようになってきた

(まぁ見た目13歳だが中身の俺は今や20歳くらいだからなぁ)

 

 剣技の鍛錬にしても人の目のないところや時間を選び日々行なっている、やはりミレイの素質は相当で後は実践あるのみといったところである


 このところの村の暮らしの中でようやく俺にとっての明るい話題がある日突然訪れてきた、この世界に落とされてから以前より安否が知れなかった朱鳥の手がかりとなる情報がもたらされたのだ


 そのソースはウルの村に時折入る外の情報からでその中に戦姫の話題があった、戦姫とはエリスに抗える力を持つ一国で唯一の存在であり、ここウルの村が属しているヴァイス王国の第2王女アスカルが物語通りに戦姫であるということが分かったのだ


 では何故それが朱鳥の手がかりとなるのか、それは俺がヴァイス王国の戦姫の名を特別な思いを込めて名付けをしたことから始まる、大層なことを言ってはいるが気になる相手をモデルにヒロインにしてみたかったという恋愛童貞の甘酸っぱいだけの理由なのだが...... ようは戦姫アスカルの名は"朱鳥"由来であるのだ


 ——希望的観測になるが主人公であるミレイが俺であるようにアスカルも朱鳥なのではないか? と思っているのだ


 もう少し確信に至る情報が欲しいし、話ができるならしてみたいが一国の王女にいきなり会えるものでもないためどうしたものかと思案に耽っている矢先にミルダンから王国城下町への商いとウルの反物の王国献上への同行の話がやってきた


 なんでも国王に森の民としての報告と村長の息子である俺の初の謁見も兼ねているらしい、ちょうどいいので城下町で戦姫の話を聞いてみようと思う、初めての城下町に少しワクワクした


「ミレイこちらに来て」

「母さんこれは?」


 出発当日、ファナは王都で謁見も兼ねているからとウルの反物でしつらえたたローブを用意してくれていた


 王都にも献上するウルの反物とはこの森でしか採れない原料を森の奥地にある妖精の泉に浸したもので糸を作り、ウルの村の秘術でしか織ることができない反物である、一目でわかる上質さに加えとても軽くて丈夫、そして反物自身が魔力を宿し身に纏う者の魔力を増幅する働きがあるという


 長い時をもってしても限られた数しか作れないため流通はほとんどせず、これを使用できるのは各国の王族や戦姫の装備、認められた森の民しかいないらしい


 荷馬車に荷物も積み終わり皆に見送られウルの村を後にする


「父さん、王都まで大体2日くらいですよね?」

「そうだな、ちょうど2日くらいだな 楽しみだろう?」

『ミレにぃ、王都案内ならあたしにどんと任せてください!!』


 俺の問いに、にっこりと笑いそう返すミルダンと快活に話す少女


「頼もしいなクルル」


 同行者はミルダンと俺、それに最近村近くでの狩や薬草採取でパートナーとして行動しているクルルだ、森の民特有の淡い金髪に透き通る栗色の瞳が綺麗な1つ下の少女で、森の民としては珍しく幼少からつい最近まで王都で従者見習いなどをしていたとは聞いている


 人懐っこくてかわいい顔してるのに弓の腕も俺に次いで上手いし初級魔法も使える万能なやつである

(ん? 物語にこんな子いたかな......)


 ウルの森から王国までの街道はまっすぐと続き木々と青い空が只々広がるばかりである、こちらに来てから3年、広大な森から出なかった俺からすれば北海道でも横断しているような光景に感動するばかりである、そんな街道を野営を挟みウルの村から1日ほど進むと次第に風景は変わり緑の絨毯を敷き詰めたような広大に広がる畑に切り替わっていった


「どこまでも畑が続いてるみたいですごいですね!」

「ここいらはウルの森と王国の中間にある穀倉地帯でウルカ村と言う農村があるんだ、農村だから特になにもないから今日は通過するだけだけどな」

『ミレにぃ王国の主食の作物はほとんどがここで作られてるんだってー』


 なんてことを話しながらウルカ村の周辺で広がる景色を眺めながら休憩を挟みつつ進む、この辺りになると作物を運搬する荷馬車などとも行き交うようになってきて王都が近いんだなと感じた、そこからさらに1日馬車に揺られ続け予定通り丸2日ほどで王都城下町に辿り着いた


「うぉっ ......凄い城壁ですね」

(実際見るとすげえな)


 俺はバカ高い城壁を見上げて声を上げた


 ウルの村は西にあるので到着した西側城門の前で俺たちは現在入門待ちである、待ちと言っても西側はウルの森までの間にウルカ村があるだけなのでそこを行き交う荷馬車しか見かけないし各国から訪れる人々もウルの大森林を迂回してまで西門を使わず北南東の城門に周るため基本こちらから入る人はあまり多くないため然程待つ事なく入る事ができた


 中に入るとすぐ市民街で城門から王城まではなだらかな上り坂になっているので広がる街並みと王城がある程度一望できて、その広さにまた圧倒された


 ヴァイス王国大城下町と呼ばれる王城をぐるりと囲む街並みは壮観の一言であり、王国はグランバシア大陸のほぼ中央に位置するために各国からの流通が集まりやすくその環境故に各国の王都よりも城下町は広く広大であるそうだ、そして市場も人種もさまざまで大いに活気付いている


 その広さ、騒然さに唖然としているとクルルに手を引かれ壁際にある大きな看板のようなものの前に連れてこられた


『ミレにぃこれ王都の案内図だよぉ』

「これだけおおきいからそんなものまであるんだな」

 

 案内図は結構詳しく書いてあり、王城を中心に貴族街が一周し内縁の城壁に囲まれている、その外側には東西南北に直線で街道がありその先に各城門がある、その街道を区切りに商人街 工房街 市民街 宿場街に区画が分かれ、それを囲むよう外縁城壁があり城郭都市のようになっている


「今日は買付とかだから俺だけで充分だ、クルル、ミレイを連れていろいろ観光でもしていてくれ、夕刻あたりに戻ってくればいいから」

『了解です! 村長お任せを』


 宿屋にて受け付けを済ませたミルダンはそう俺たちに伝えて商人街に向かって行った


 王国での滞在予定は3日だ、初日は買付や取り引きなど交渉事らしいので俺たちの出番はない、なので王国を知るクルルと周辺散策に戦姫の話を聞いて周るつもりだ


『ミレにー どこいこか?』

「そだな、せっかく王国来たから露天で何か食べてみたいな」

『それなら、こっちのお店がいいよ』


 クルルに案内されたところは市民街と宿場街の間にある南の街道にそった比較的市民向けな市場だ


 さまざまな良い匂いが鼻をくすぐって食欲が湧いてくる、俺はクルルのおすすめの露天を巡っていく


「これ...... 美味い」

『でしょ! 最近流行ってるみたいだよ』

(つかこれ見た目違うが ...お好み焼きだよな、美味いけど)


 さすが俺の描いたファンタジーだ、俺の好みがこんな所に影響されてるところに少し驚いた、この世界に来てから自然に触れた食べ物しか食べてなかったのもあるが見た目は違うが覚えのある味の食べ物に懐かしいさと感動を味わいその日は市場巡りを楽しむことで終わりを迎え夕刻となった、もちろん戦姫の情報もそれなりに収穫があったのでよかった


「どうだミレイ、初の王国巡りは?」

「美味しかったです‼︎」

『ミレにーはずっと市場で食べてたよ なんか涙目で』


「よっぽど美味かったんだな......」

「ははっ...... おかげさまで」


 宿屋に戻るとミルダンは先に戻っていたようで出迎えてくれた、その夜は城下町での話題で一頻り盛り上った


「明日は謁見があるからしっかり身だしなみを確認して今夜は早く寝とけよ」

「分かりました父さん、おやすみなさい」


 本番は明日とのことなのでその後、俺は早めにベッドに潜った、眠りにつく前に改めて情報を整理することにした


 ——市場の食べ歩きツアーでそれとなく聞いた戦姫の噂話は【若くして戦姫に選ばれたばかりらしいがすでに腕が立つ】【美しい】【不思議な剣技を使うらしい】【片刃の武器を好む】などの有益な情報だった


 ——やはりアスカルは"朱鳥"で間違いないと思う


 片刃の武器を使った不思議な剣術は嘉納流剣術であろうと俺は読んでるが直接見ていないため確信できないところもある、それにもし朱鳥ではない場合は対応によっては要らぬ誤解を招く恐れもあるため、どうやって見た目の違う俺の生存や存在を朱鳥だけに分かるように伝えればいいか暫く考えていると、ふとある作戦が浮かび、明日謁見の後接触を試みてみることにした

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