ウルの村と森の民

第3話 始まりは森の中

 穏やかで暖かい日差しに柔らかい風


 頬を撫でる感触にうっすらと目を覚まし微睡む体を起こし、俺は寝ぼけ眼で辺りをみる


「ここは...... 森? いたたっ」


 どうやら木に背中を預けて寝てたらしい、ぼーっとして頭が回らない 暫く考えると次第に脳が目覚めてくる


「何やってたっけ? 俺.....」

「.....っ!!」


 直前に起きた出来事を少しづつ思い出す

やがて事態を把握した俺は慌てて起き上がる


「あれっ 目線が低い?」


 自分の体の違和感に手を足を体を頭を弄り考える

......耳が長いし、どうやら子供になってるぞ ......10歳くらいか?


「いったいどうなって ......あれっ ......朱鳥は?」

「朱鳥っ 朱鳥ぁ」


 俺の体の変化も勿論だが一緒に巻き込まれた幼なじみがここにいないことに気づき、慌てて森を歩きながら呼びかける ......が返す声はどこにもない


「ミレイっ ここにいたのか」

 

 ここはどこなのか? いったいどうなっているのか? 場所も状況もわからず彷徨っていると背後から不意に声を掛けられ振り向くと、そこには弓を背負った淡い金髪で耳の長い中性的な顔立ちのイケメンがいた


「エルフ? ミレイ?」

「どうした頭でも打ったのかあ? 住み慣れたウルの森とはいえ、狩は今日が初めてなんだから注意せんと思わぬ怪我をするぞっ」


 俺はどうやらミレイというらしい、この人の子供かな? ......ミレイ? ウルの森? 聞き覚えがあるがハッキリせん、飛鳥も気になるし


「えーっと、父さん ここはウルの森で僕は初狩なんですよね? 少女を見かけませんでしたか?」

「なんだ、やっぱりどこか打ったのか? お前の初狩の途中で俺と2人だったろう、それに森にそんな女の子が1人でいるわけないだろう、獣や小さいが魔獣もいるんだから」


 ここにはいないのか ......はぐれたのか? それとも巻き込まれなかったのか、俺は今一度直前の出来事を思い出す


 ——貴方には貴方の創った世界で死んでもらう——


 (頭がついていかない... この言葉の意味 俺は転生?転移?した... のか? 落ち着け! ミレイ、ウルの森、......恐らく間違いないだろう)


 この人は父親ならミルダンという名前で、ミレイと呼ばれたこの俺はその子供、初狩なら確か10歳だったはずだ


「そろそろ日も傾く、初日だしそろそろ帰るぞ」


朱鳥も気になるがもしいたならば森に精通しているミルダンが見つけているはず...... とりあえずはこの森にはいないとゆう事か

 (色々状況を整理もしたいしこの体では成り行きに任せるしかないのかもしれない)


「わかりました父さん」


 そうミルダンに告げ、後をついて森を抜けると程なく簡素な柵に囲われた小さな村に辿り着いた


 辺りを見渡すと20棟程の大小のログハウスのような作りの建物がまばらにあり、いくつかの建物の隣には畑などがあった


 村中央には共同の井戸があり簡素な服を纏った子供たちが笑いながら走り回っていて、俺たちに気づいた子供たちが手を振っている


 手を振り返しながらミルダンの後を追ってついていくとやがて他より一回り以上大きな建物に到着した


「ミレイ今日は良くやった! 成果はイマイチだが初狩だし、なんかお前様子がおかしいようだから母さんにちょっと見てもらえ」

「分かりました父さん」


ガチャッ パタン


「おかえりなさい ミレイ」

「ただいま帰りました母さん」


 ミルダンに返事をしペコリとお辞儀をした俺は家に入った、ここはどうやらミレイである俺の家らしく村長宅であるこの屋敷は入口を入るとすぐに集会所も兼ねた広めのリビングがあり中では20代前半に見える女性が出迎えてくれ俺をそっと抱きしめてきた


 ミレイの母さんなら名前はファナだったな、淡い金髪に整った顔立ちで現実には早々いなそうな美女であるファナを見て綺麗だなぁとか思いながら、帰りの挨拶を行った


「頭を打ったかもと聞いたわ、怪我はないみたいだけど念のため、ご飯まで部屋で休んでいなさい、初狩の話はその時に聞くわね」


 柔らかい笑顔で体をあちこち確認し、そっと頭を撫でそうファナは話した、俺もとりあえず状況を整理したいからお言葉に甘えさせてもらい部屋まで連れて行ってもらい休ませてもらう


 俺はベッドで横になり天井を眺めながら改めて現状を振り返ってみた


 俺はリアルで”エリス”に襲われた ......それだけ聞くと周りの奴らはとうとう人生を受け止めきれずに2次元の世界に旅立ったのかと思われ笑われるか憐みの目を向けられるだろう まぁ実際学校では学園の聖女と呼ばれる程の朱鳥と一緒にいつもいたので学園中から妬みややっかみなどでしょっちゅうなので扱いはあんまり変わらんと思うが ......けど実際に起きえないことが起きた


 この世界は俺の創った世界だ


 ミレイ、ミルダン、ファナ、ウルの森 目覚めてからの短い時間での情報でもそれは確信できる、ではなぜこんなことになっているのか? そこでふとエリスの言葉を思い出す


 ——貴方には貴方の創った世界で死んでもらう——


 これは紛れもなく俺に対する言葉であろう、物語ではラスボスであるエリスにはその見た目の優美さに反して苛烈な人生を描いた、それは打倒される最後まで...... ありえない世界だからこそ残酷で報われない役を演じさせた

 

 だがしかしそれは創ったありえない世界だからこそ描けたものでありもちろん俺の本心ではない


 きっと彼女は復讐しようとしているのだろう、いや... そんな生易しい言葉では足りないほどの憎悪なのかもしれない、それはもう現実に顕現するほどなのだから


 ではなぜ俺は主人公であるミレイなのか? エリスは俺をこの世界に飛ばすほどだ... だが人を選んでまで送り込むことが果たしてできるのだろうか? 


 この事には何か別の力が働いているのを感じる、それに最後まで抱きしめ寄り添い、声を掛け合った幼なじみの存在


「最後まで伝えることさえできなかった」


 目を閉じて数時間前まで笑い合った光景を思い出し1人呟く 

 

 朱鳥はいったい何処に行ってしまったのか...... 願わくば巻き込まれなかったと思いたいがあの時確かに2人とも巻き添えになった


 今すぐにでも探しに行きたいが今の俺ではどうにもならない、何の手立ても見出せず焦りばかりが募る


 恐らくこの世界の流れは物語に沿っているはず、朱鳥は無事だとひとまず割り切って、今俺にできることをやるしかないか......


 そう一頻り頭と心に整理をつけた頃、扉の向こうから夕飯を呼びかけるファナの声が聞こえた


「気分はどうミレイ?」

「初狩で緊張の疲れもあるだろう、母さんが軽めの食事を用意してくれたぞ」


 食堂に向かうとミルダンとファナは食卓で俺を待っていてくれた


 正直あまり食欲はなかったが体調を気遣かったファナの料理に感謝しその後は食卓を挟み初狩の感想や今日の出来事を話し合った


「狩の途中お前が変なこと言うから、気になってあの後森を調べてみたが特に人の気配はなかったぞ」


 食事が終わる頃、思い出したようにミルダンが気になってる事を話してくれた、ひとまず朱鳥が獣に襲われなかっただろう事に安堵した


 部屋に戻り、改めて考える


 とりあえず朱鳥は魔物には襲われていないようだし無事と捉えよう、この森にいないとするともしやあの場所だろうか? どうする? 探すにしても現実に戻る方法を探すとしてもミレイはまだ幼すぎるし俺の描いた異世界だとしてもまだこの世界を知らなすぎる


 まずはこの環境に慣れる事、旅ができる力をつける事だな、俺の物語なら主人公ミレイには"七色の加護"があるはず、まだ覚醒はしないだろうから基礎的な体力と技能を身につけなくちゃ 

(朱鳥...... 必ず見つけるから 一緒に帰ろうな)


 そう自分に問いかけ、気持ちを奮い立たせ心に誓いを立てた

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