#3 vs守護者
状況を受け止めきれないロリエを救い出す為、俺はティアという少女の体を借り守護者討伐を試みる。
洞窟内の灯は依然として消えることはなく、それぞれの位置を絶え間なく見せる。
放心していた間に守護者はルイスとレイブンの遺体から距離を取っていた。戦おうにも二人の遺体が気になってしまい、担ぎ上げようとするが守護者は動かず白い息を吐いていた。
隅で崩れ落ちているロリエの処までレイブンを運び続けてルイスの下へ戻る。遺体は重いと何かで聞きかじった事はあったが鎧を着けたルイスともなると……。
「ルイスさん…ごめんね……」
現状ではそうする外なくルイスをゆっくりと引きずって運んだ。剣を分けて運んだおかげで三往復する羽目になったが、ロリエが静かに遺体に涙を溢しているのを見て、気持ちの整理が始められたのなら偽善的な行動ではないと思える。
それから使える物を探すと、ロリエの杖が目につくが長物を所持したままでは動きが阻害される。ルイスの剣は強力だが扱えない、となるとレイブンのナイフをベルトごと借りることにした。
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ティアは神妙な面持ちでロリエ達から離れ守護者の佇む中心部へ足を運ぶ。
その時、面持ちを変えずにいた暗闇が熱気を帯び動き出すのが見えた。
「グアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!」
突如として守護者は雄叫びを上げ駆け出してくるが、ティアは鏡合わせに走り出す。その速さは正に意識外、守護者と然して変わらない速度で近づいて行く。
三人の言っていた動きを遥かに超え、思い通りに体が動く。それならティアがやったように瀕死まで持っていける能力を期待するしかない。
同じ事を繰り返さないと誓った分だけ早く鞘に手を添え、地面を強く蹴り込むと、抜く手も見せずティアの取り出したナイフは守護者の足を掠める。明らかに武器の扱いではなく身体能力の高さ、凄まじい速さに乗って腕を振った攻めは守護者に外傷を与え、加えてティアには一時の喜びを授けた。
「当たった!!!」
声を上げた直後、守護者は控えていた触角を突き出す。完全に明るいわけではない洞窟だからこそ、守護者の影に隠れた触角、二人の息の根を止めた攻撃は絶対に避けなければならない。
静かに行動していた守護者が急に動く違和感。死体を装う忍耐と知能があるのなら正直に突っ込んでくるわけがない。俺は守護者の武器である触角を目の端で追っていた。
ティアの瞳には走り出した時から既に、守護者が触角を後方に下げる動作を目視していた。
対応できると言う信頼から両手でナイフを抑え、守護者の触角を弾く。但し、小さなナイフで受け止めきるには大きすぎる衝撃を往なせず、そのまま壁に弾き飛ばされる。
想像以上に壁に叩きつけられた時の痛みは、乾き凹凸のある壁という最悪の状態が重なり何倍にもなるが、起き上がるには十分な思考は持ち合わせていた。
(………い、痛すぎる…。でも、ナイフは届いたぞ!!!!)
(よしよしよし!!!!!)
(後は触角さえなければ……魔法も………)
視界の端では先ほどまでの休戦協定は白紙になったらしく、影が襲いかかってくる。
息をつく暇もなく、守護者の追撃はティアを壁伝いに追いやり続ける。囮を使わずとも己の武器の身で行けると確信でもした様に、二つの触角で刺してくる。
細黒い物が壁に突き刺さる度小さな土煙を上げ、幸運にもティアの姿を潜ませる。確実に守護者にとっては悪手となり標的を見失うほかなかった。
一方、目も開けられない中でティアは何かを思いついたように、手で壁の位置を確認したかと思うとすぐさま中央へ向かい駆け出す。
(これなら隙を突ける!!)
思わず頬が緩むティアが土煙から飛び出す。土煙で攻撃を止めているなら、先ほど同様に先制攻撃で視覚を、守護者の目を潰せばティアの魔法で止めを刺すという算段だった。
「消えた!?」
勇みよく飛び出た先には守護者の姿はなかったが、土煙が微かに動いたように見え、ティアは振り向き構える。先ほど同様にナイフを構えるも、二度轍は踏まないと決めたことにより記憶を呼び起こし唱える。
「緋よ凛冽たる日々を分かつ! 神の燎火が齎す衣紋を着せ……、災いを祓いし槍となれ!!!【ファイヤーランス!!!!!!!!!!!】」
言葉を紡ぎ出すとティアの真上に輝くことで放ち形を成していくが、明らかにロリエの燃えるような赤色とは違い、飲み込まれそうな赤黒い。魔法はロリエの言葉通り、言い切るより先に現れたように見えた。
対して守護者は煙を纏い飛び出し、魔法を目にすると体を捻り受け止めて見せた。
「よしっ! 当たった………―――」
確かに魔法は守護者の腹部に命中した…はずだった。
「………これじゃない…」
ティアの苦い表情は、淡々と体を起こしこちらを向く守護者を見て、声として漏れる。
魔法という響きに踊らされていたように、ティアの一度の攻撃では戦況は変わらなかった。もしくは、今と同じレベルの動きをして魔法を当てることを何度も続ける必要があるのか。守護者の体にある無数の傷が指し示すのは、攻撃が意味を成していないのか。
俺の動きたい意思とは反し、経験のない痛みの中、行動することへの負担は思いのほか大きく気持ちを先走せる。
(倒さないと……あいつを……)
「……俺がやらないと!!!」
折れた心を引きずり、無暗に守護者へ向ける。
星一ダンジョンには4人で挑まないといけない。三人が言うティアが守護者を瀕死までもっていったというのも、単に傷だらけになったことを指していたかもしれない。
守護者は白い息を深く吸ってから轟音と共に吐き出した。
「グァァァァアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
その音は衝撃波となり空気を揺らし、力んだティアを再度淵に押し出す。今までに見たことのない攻撃に、守護者の中の守護者の神髄を垣間見るが、詰まるところ挽回できる力を持ち合わせていないことの証明になる。
体の至る所に打撲と切り傷があるティアは、腕から流れる血をあの時の光景と重ねていた。
崩れ去った外壁と心は戻る様子は見せない。
守護者は確実に止めを刺しに走り込み、ティアは依然として立とうとする。
「………この体……まだ思い出してないのに…」
瞬間、ティアと守護者の間に赤い火の玉が数個現れ爆発。【ファイヤーランス】より小さな魔法は場をかき乱すには十分な威力だった。
(―――…ロリエさん…?)
続けてロリエが駆け込みティアの前に立ち、自分を鼓舞しながら聞き覚えのない言葉を並び始める。
「……ルイスさんとレイブンさんの分までわたくしが守ります!!!!!」
「世界を覆いし母なる大地、天をも穿つ軌跡を現せよ…!【ロックスパイク!!!!】」
詠唱と共に地面から不揃いな岩がティアとロリエを包むように迫出した。あっと言う間に外からの灯を遮断し、闇を見せる。
ロリエは杖の宝石を大切に握ることで、小さな光源を持つ物へと変化させる。
「大丈夫ですか……ティアさん…?」
震える唇からは何かを覚悟したように他人を思いやる言葉をかけ、少女はそれが自身に言い聞かせているようにも聞こえた。
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