#2 後悔

 守護者がルイスとレイブンの体を貫く光景を、俺とロリエは離れた場所から見ていた。


 憤然たる様相から細い糸に手が届く時、突飛に金色と青色の糸は去ってしまう。


 自殺の理由を忘れた俺はティアという少女になった第一歩目は、消費コンテンツとして散々消化した覚えのある光景だったが、そこには痛快な気分はなく身の毛がよだつ恐怖と識見のなさを恥じる後悔しかなかった。


 守護者は触角を丁寧に動かし、突き刺した人だったものを白い瞳で確認していた。


 そして満足して吐き捨てるかの如く周囲へ投げ捨て、こちらを冷厳な態度で見つめてくるのであった。



「――――ルイスさんと…レイブンさんが…」



 地に伏していたロリエは二人の名前を口から漏らし続け、只管に前を向かないことで零れる涙の数を抑えようとしている。


 目の前で対峙して初めて分かる悍ましさに震える脚を押さえ、二人のことを考えるも出る答えは自分へのいら立ちだ。


 自殺した理由さえも忘れ、傲慢にも他人の体に乗り移った挙句が親身になってくれた人に恩を返すことさえできなかった。


 仲間といってくれた彼らを失い責任を感じつつも、短い時間の付き合いながらにして掛けられる言葉は分かる気がする。



[ロリエと…、一緒に逃げてくれ]



 無謀にもダンジョンを初心者三人で攻略しようとしていたが、突然現れた少女を仲間といってくれ、記憶がないといえば教えてくれた。そんな心温かく、仲間思いの彼らはロリエを助けてくれとは言わず、共に逃げてほしいと思うだろう。


 この状況をどうにか二人で脱出する方法を模索しなければならない。



(出口は一つ…、いや二つ……)



 一つ目は二階から降りてきたときに入ってきた扉から逃げる。扉から一歩でも逃げれば襲って来ないのであれば、この体とてロリエを抱えて逃げることは可能かもしれない。正しどこまで追ってくるか全くもって不明なので、理想的なことを言えばこのダンジョンの出口即ち地上に出ることで他の誰かに助けを求めたい。何方にせよ俺だけで出ていくことは道義が許さなければ彼らに顔向けもできない。


 となると二つ目の予定通りに守護者を倒し報酬部屋からの帰路。ただ冷静に考えて奴を倒す手段があるのだろうか。話では動きの速い守護者とティアは一人で戦い瀕死までもっていったという。そこに三人が連携して止めを刺したはずだったが、結果は近づくと避けることが困難な速さで攻撃をしてきた。底なしの体力と相手の裏を突く行動を兼ね備えた守護者をどうやって討伐すれば良いというのか…。


 ここは間を取ってある程度戦闘してから隙を見て退散するという策もあるが、何方にせよロリエ抜きに話を進めなければならない。


 今も尚、死を装い誘き寄せた守護者は表情を変えず、死体と見間違う程には立っているのが不思議なぐらいの見掛け。


 何か考えないと。


 同じ轍を踏むわけにはいかない。


 ティアならどうしただろうか。こんなことになるのなら彼らにティアがどういう動きをして守護者を瀕死までもっていったのか聞いておけば………。



(―――いや待てよ、今は俺そのティアってことはやり方があるんじゃないか!?)



 聞いておけばよかったと後悔をする前に、聞いたことを思い出そう。


 最初に言われたのは守護者の攻撃が彼らに向けられたとき庇ったせいで追ったはずの傷がなくなっていたこと。自然治癒力が物凄く早いか、何か薬的なものを隠し持っていたなど想像は幾らでも膨らませられるが、現状体に傷はなく痛みもない。むしろ体が軽く体調も心無いかよい気がするので、戦う体力はあるということ。


 ティアの戦闘能力については息もつかせぬ守護者と渡り合ったと三人が口を揃えていたこと。特にロリエが言っていた、「魔法の詠唱の速さと威力の高さ」が恐らく一番の勝ち筋だが如何せん、知っている詠唱はロリエの唱えていた【ファイヤーランス】のみ。


 心配事はもう一つ。彼らやこの世界にとって当たり前すぎて話に出なかった魔法の対価について。何かを使うには何かを払うはずだが、魔法があるなら《魔力》があると容易に想像できる。そしてティアはどのくらいの量を保有しているのか。


 少なくともロリエと比較するとなれば、静止状態で集中して詠唱と、一苦労だった様子。魔法使いは後衛に立ち前衛職に守ってもらうのだろうが、ティアはそれらをすべて一人でやっていたはず。



「――…守護者の攻撃を避けながら【ファイヤーランス】を一回ないしは二回は確実に撃てる…」



 全てに確信はないただの憶測に過ぎない。


 仮にそうだとしても行動をしなければいけない。


 同じことを繰り返さないために。


 これがもし成功するのであれば無地二人で脱出でき彼らの遺品も回収できるだろう。


 抑えていた涙すら出し切り二人の遺体を奥に佇む深い色を茫然と映す時、レンズの隅から灯よりも誤りなく照らし出す赤髪の少女がいた。

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