第45話 神授の武器はどこに?

 奥に目を向けると――なんと! ドラゴンの背中に、魔法使いが立ってるじゃねえか。しかもパチパチ拍手なんかしてやがる。

 魔法陣に引っかかることなく竜の背に上るなんて、一体どうやったんだろうか。


「フェイナ様との一騎打ち、拝見させていただきました。いやあ、お見事。ただ、あえて言わせていただくならば――棒高跳びなどなさらずとも、普通に槍を投げればよかったのではありませんかな?」

「そんなことすりゃ、姫さんを殺しちまうかもしれねえだろうが」


 あのとき、無駄な血を流さず手っ取り早く二輪戦車チャリオットを止める方法って言えば、あれしか思いつかなかった。一応、サーラの魔法に頼るって手もあったんだが、あいつはあんまり、派手な魔法を使いたがらねえからな。無理を言うわけにゃいかなかった。


「おやおや……そういうところも相変わらずですな。忘れっぽいうえに、いささか間が抜けておられるのが欠点ながら、根は真面目でお優しい。私が父君にお仕えしていた頃と、まったくお変わりでない」


 カリコー・ルカリコンは、ドラゴンの背中の上で、くすくすと含み笑いした。そして――。



「私としては、殿下にフェイナ様を始末していただきたかったのですがね? その方が、私も手間が省けて好都合だったのですが」



 と、何かとんでもねえことを口にしやがった。


「な――カリコー?」


 俺たちの背後で驚きの声が上がる。見れば姫さんが、あっけにとられた様子でその場に立ち尽くしてた。

 羽織った狼皮の外套マントが、はらりと脱げて床に落ちる。


「どういうことだ? 説明しろよ、カリコー・ルカリコン!」


 あられもねえ格好で呆然としてる姫さんに代わって、俺が問いただす。


「どういうことも何も、私の本音を率直に申し上げただけなのですが?」


 嫌な予感がした。まさかこいつ、姫さんを……?


「どうやら殿下はお気づきのようですな」


 俺の様子を見て、魔法使いはさもおかしそうに、くつくつと笑う。


「そうです――裏切りですよ、裏切り。ここまでたどり着いた以上、フェイナ様はもう用済み。いずれ隙を見て、冥界へ送って差し上げるつもりだったのですよ」


 驚きの女神ラプサにかけて、なんてこった! あの野郎、この姫さんに、親父のときと同じことをしようとしてやがったのか。


「殿下はご存じですかな? その昔、この〈樹海宮〉に宝を隠したのは、当時のフォレストラ王にお仕えしていたファル・ディロンという宮廷魔法使いでしてな。隠された入り口や中に配された罠、仕掛けについてご存じなのは、彼が記した書物を代々受け継いできたフォレストラ王家の方々のみ。それゆえ私は、三年前からそちらのフェイナ様に取り入り、この大広間まで導いていただける日を待っていたのですよ」

「他人に道案内をさせて、用が済んだらお払い箱か」


 デュラムが眉根を寄せて、嫌悪感もあらわにつぶやく。


「汚いやり方ね」


 サーラも不愉快そうに眉をひそめ、ぷうっとふくれっ面になった。


「なんとでも言われるがよろしい。私は貴方がたと違い、冒険者ではありませんからな。このような危険に満ちた遺跡の中を、安全かつ迅速に進むためには、フェイナ様のような導き手が必要だったのですよ。もっとも――」


 カリコー・ルカリコンは、姫さんにさげすむような目を向けた。


「この際はっきり申し上げますがフェイナ様、貴方には失望しましたよ。フォレストラ王家に伝わる書物を読み解き、この遺跡について知り尽くしておられるはずの貴方が、異国人とつくにびとである殿下に遅れをとるとは! 隠された入り口を先に見つけられたばかりか、この大広間にも一足早くたどり着かれてしまうなど、あってはならないことです。これでは私がなんのために貴方にお仕えしていたのか、わからないではありませんか」


 他人ひと様を利用するだけ利用しておいて、勝手なことを言いやがる。


「私に余計な手間をかけさせたのです。気の毒ですがフェイナ様、役立たずの貴方にはここで死んでいただきましょう。この遺跡の宝、神授の武器を手に入れ次第ね……」

「へっ、どこにそんなもんがあるってんだよ?」


 俺は笑った。そりゃ、笑いたくもなるさ。周囲にあるのは相当な値打ちもんにゃ違いねえが、お宝としちゃ、ごくありふれた金銀宝石ばかり。魔法と縁のありそうな武器や甲冑、装身具アクセサリーも転がってるが、神々が地上の住人たちに授けるような、そこまでご大層なもんは見当たらねえ。

 だが、妙なことに、カリコー・ルカリコンは俺の指摘を一笑にふした。


「おや、お気づきでない? 私はこの大広間に入って、すぐに気がつきましたよ?」

「なんだって?」

「神授の武器は、ほら――あそこですよ、あそこ」


 そう言って、魔法使いはゆっくりと右手を挙げ、骨張った人差し指をぴしっと立てた。


「まさか……上?」

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