第44話 くっ、殺せ!
「
「くっ……こ、殺せっ!」
姫さんが、俺の下であがきながら、とどめを求めてくる。
「
「は……はずかしめ?」
その一語を反芻して、自分が今、とんでもねえことをしてるのに気づいた。
床の上を転がるうちに狼の毛皮が脱げたようで、今は水着同然の革鎧しか着てねえ姫さん。その上にまたがって、左右の手首を乱暴に押さえつけてる俺。この構図は、まるで――。
「う、うぅわああああっ!」
情けねえ悲鳴を上げて、俺は姫さんの上から飛びのいた。首を振り振り両手も振って、どうにか弁解しようと努める。
「ち、ちちち違う、誤解だ誤解! 俺は、そんなこたぁしねえよ!」
いくらきれいだからって、恋人でもねえ女の子に、そんな無礼ができるかってんだ。
「嘘をつけ、
「ちーがーうっての、そりゃ偏見だ! 太陽神リュファトにかけて、あんたを辱めたりなんかしねえ!」
「
「なんでだよ! あんた
「リアルナ殿は高貴な方、
「なんだよそれ! 身分の高い低いで信用できるかどうかを決めるなんて、おかしいじゃねえ
か!」
「身分だけではないぞ、お前のその格好っ! 白昼堂々、人前で腹を見せる露出狂の言葉など、誰が信じるかっ!」
「ろ、露出狂って……あんた、自分の格好棚に上げて、よくそんなことが言えるな……」
なんだか、話がどんどん脇道へそれてるような気がする。俺はこの姫さんに、聞きてえことがあるだけなのに。
どうにかそれをわかってもらおうと試みるが、フォレストラ王国の王女様は聞く耳持たず、ひたすら勘違いの一本道を突っ走る。
「さあ、これ以上話したところで時間の無駄だっ! 殺すなら殺せ、
しなやかな四肢を床に投げ出し、大の字になって、俺からぷいっと顔を背ける姫さん。
ったく、まいったな。どうすりゃ信じてもらえるんだか……。
そこでふと、俺の脳裏を疑問がよぎった。そう言えば、あいつは――カリコー・ルカリコンは? さっき戦車から降りた後、奴はどこへ行ったんだ?
姫さんを放って立ち上がり、周囲を見回してみるが、魔法使いの影すら見つからねえ。
「まさかあの野郎、逃げたんじゃねえだろうな……?」
もしそうなら、すぐにでも後を追いかけて、あいつの首根っこを押さえてやりてえ。けど、その前に――。
俺は、いまだに床の上で大の字になってる姫さんの両手をつかみ、
「うりゃ!」
と一声。左右の腕に力を込めて、姫さんの上半身を引っ張り起こす。それから、すぐそばに落ちてた狼皮の
「ほらこれ! その……さっさと着てくれよ!」
そう言って、フォレストラ王国の王女様に差し出した。
ここは地の底、冥界に近い場所だけあって、空気が冷たい。あんな裸も同然の格好でいちゃ、風邪引いちまう。俺だって、その……何か着てもらわねえことにゃ、目のやり場に困るしな。
「お、お前……?」
てっきりはずかしめられるとばかり思ってたのか、目をぱちくりさせる王女様。
よかった。とりあえず、落ち着いてくれたみてえだ。
「姫さん、あんたに聞きてえことがある。あんたとあの魔法使いの関係について教えてくれ」
「……? なぜそんなことを知りたがる?」
「俺にとっちゃ大事なことなんだ。あんたが奴の主だってのは、本当なのか?」
姫さんは狼の毛皮にくるまると、いぶかしげに俺を見た。それから、ちょっと逡巡する様子を見せた後で、こくりとうなずく。
「カリコーは、私の腹心だ。三年前から、我がフォレストラ王家の宮廷魔法使いとして、私を支えてくれている」
「三年前から?」
それは……あいつが親父を裏切って、行方をくらませた頃からってことだよな。
「じゃあそれまで、奴がどこで何をしてたのかは、知らねえのか?」
「イグニッサという小国から来たとは聞いているが、それ以上のことは……」
「太陽神リュファトにかけて、そりゃ本当か?」
「森の神ガレッセオにかけて、真実だっ!」
おかしいぜ。あいつがフォレストラ王国の差し金で親父を殺したんなら、奴はそれ以前からこの国の王家に仕えてるはずじゃねえか? 一体、どういうことだ?
そんな疑問を抱いた、まさにそのとき。
「――私をお探しですかな、殿下?」
大広間の奥から、声が聞こえてきた。しかも、かなり高いところから降ってきたような気がするぜ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます