第10話 BOY MEETS OSSAN!
「やあ君たち、大丈夫かね?」
男がこっちに向き直り、声をかけてきた。剣を鞘に収め、悠然と歩み寄ってくる。
「危ないところだったな。だが、無事で何よりだ」
……あの背丈。デュラム以上の長身だ。肩幅も広いし、胸板も厚くて四肢も太い。堂々たる体躯の偉丈夫だってことが一目でわかる。波打つ金色の髪に
……ちょっとだけ、親父に似てるな。
「あ、ああ。おかげで――うおっと!」
「助かったぜ」って続けるつもりだったんだが、できなかった。デュラムが俺とおっさんの間に、槍を突き入れたからだ。しかも、空気が悲鳴を上げるくらいの勢いで。
おっさんは、目と鼻の先に突き出された白銀の穂を見ても、驚くそぶりさえ見せなかった。狩りの途中で一息入れてる王様みてえに、気楽にくつろいだ様子でデュラムの方を見やり、眠そうな目を一、二度
だが、俺はおっさんみてえに落ち着き払っちゃいられなかった。仲間の無礼は見過ごせねえ。
「何しやがるデュラム、危ないじゃねえか!」
「この男、ただ者ではない。簡単に気を許すな」
「な――何言ってんだお前。命の恩人の前で、無礼なこと言うんじゃねえよ」
本音を言えば、俺だって気を許したわけじゃねえさ。あんな人間離れした力を持ってるんだ。ただ者じゃねえってことくらい、言われなくてもわかってる。けど……。
「こういうときは、気を許すとか許さねえとか、そういうことを考える前に、とりあえず頭を下げるのが礼儀ってもんだろ!」
いきなりこんな話をするのもなんだが……俺の親父って礼儀にうるさい奴でさ。「年上の者には敬意を払え」とか「恩は必ず返せ」とか、あるいは「
多分、そのせいだろう。礼儀にゃついこだわっちまうんだよな、俺。
「相変わらず
「お、俺は
「ちょっと、二人ともやめなさいよ! みっともないじゃない」
野郎二人の言い争いを、見るに見かねたらしい。サーラが俺とデュラムの間にするりと割り込んだ。
「ほら、つまんないことで喧嘩してないで、離れて離れて」
そう言って、俺たち二人を引き離してから、男の方へと向き直る。そして、とんがり帽子を取るなり、ぺこりと頭を下げた。
「助けてくださってありがとう――他の二人に代わって、お礼を言わせてもらうわ」
「なに、礼には及ばんよ。私がこの場に居合わせるよう運命を定めた、ソランスカイアの神々に感謝したまえ」
おっさんの日焼けした顔に、ふっと温かな笑みが浮かぶ。皺の寄った目尻が下がり、乾いた唇がほころんだ。
「私はマーソル。君たちと同じ冒険者だ」
「あたしはサーラ、天才魔法使いよ」
「『自称』が抜けてるぜ、『自称』が……いてっ!」
突っ込んだ途端、魔女っ子に足を踏んづけられた。しかも、手加減なしで思いっきり!
「こっちはメリック、あたしの弟分なの。忘れん坊だし、おまけにちょっと間が抜けてるけど、一緒にいて退屈しない子よ」
「いぃてててて! 紹介してくれるのはありがてえんだけどさ、足をどけてくれよ、足を!
「で、こっちの
「デュラムだ」
ふう、いててて……
「貴公――マーソルといったか? 助けてもらったことには感謝している。しかし、だからと言って……」
「あーっ、デュラム君! 頭の上を虻が飛んでるー、危なーい♪」
カポン! いきなりサーラが芝居がかった大仰な口調で叫び、デュラムの頭を杖で一撃した。もちろん、虻なんか飛んでねえ。この高慢ちきなすまし屋が、またおっさんに無礼なことを言うんじゃねえかと危ぶんで、待ったをかけたんだろう。
「サーラさん、いきなり何を」
叩かれた頭を押さえて、デュラムが抗議する。それに対して、サーラは口では答えず、片目をぱちっとつぶってみせた。俺とデュラムは気づいても、おっさんにゃ気づかれねえように。
あれは多分「いいから、ここはあたしに任せて♪」って意味だな。
「ふん……」
サーラの
「お前さ、いくら疑り深いからって、命の恩人の前でそういう無礼な態度をとるのはよくねえと思うぜ?」
そう声をかけても、鼻を上向けてだんまりを決め込む始末。俺が右手に回れば奴は左を向き、左手に回れば右を向く。こっちを見ようともしねえ。まるで、つんとすました金持ちのお嬢様だ。
まあ、こいつのことはしばらく放っておこう。この手の問題は、時間が解決してくれる。
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