第9話 青外套の剣士
「誰だ、あいつ……?」
これも
今、俺たちの前に現れたあの人間も、ひょっとして――天上の権力者たちが気まぐれによこした助け舟なんだろうか?
こっちに背を向けてるんで顔は見えねえが、多分男だな。昼の蒼穹を思わせる真っ青な
どうやら
そのとき、男が信じられねえことをした。腰の剣に手をかけ、すらりと鞘を払ったんだ。
抜けばきらめく黄金の刃。刀身が陽光に照り映え、燦然と輝く。まるで、剣そのものが光を発してるかのように。
遠目にもわかる、あの見事なこしらえ! あれは……
「まさかあの人、
「おい! あんた、正気かよ!」
サーラが息を呑み、俺も思わず叫んだが、青
一方、男がやる気満々と知って、牛頭人身の魔物は怒り心頭に発したようだ。しきりに角を振り立て、蹄のついた足で二、三度地面を掘り返して歩き出した。大地を揺るがし、男に向かって大股に歩を進めながら、戦斧を大上段に振りかぶる。黒い刃が、魔物の頭上で雷みてえに光り――一気に振り下ろされた!
哀れ、男は樵の鉞に打ち割られる薪みてえに、頭のてっぺんから真っ二つ……と思いきや、次の瞬間、信じられねえことが起こった。男が地面を蹴って軽やかに飛びすさり、怪牛必殺の一撃をかわしたんだ。並の人間にゃ到底避けられねえ、落雷じみた一振りだったのに。
「は、
怪牛は得物を地面から引っこ抜き、男をじろりとねめつけた。そして、再び斧を振り上げるなり、今度は右から左へ、左から右へと振り回す。
「――ふ」
稲妻の速さで迫る
踏み込みが足りねえと思ったんだろう。怪牛が一歩二歩と進み出て、男との間合いを詰めた。
今度こそ男の脳天をかち割ろうって腹なのか、電光石火の四撃目を打ち下ろす! そして――また信じられねえことが起こった。
「づあああああああッ!」
獅子の咆哮もかくやという大音声。男が一声雄叫びを上げ、剣を下からすくい上げるように一振りした。割れ鐘の響きにも似た大音響が、耳を聾する。
「う、嘘だろ……?」
あの男、怪牛の戦斧を跳ね返しやがった。まともに受け止めたりすりゃ、剣ごと叩っ斬られそうな一撃だったのに、それをあっさりと。
デュラムとサーラも、これにゃ度胆を抜かれたみてえだ。言葉もなく、呆然とその場に立ち尽くしてる。
だが、一番驚いたのは、戦斧を跳ね返された怪牛本人だろう。奴の様子を見れば一目瞭然だ。あの直立二足歩行牛、自分の戦斧と男の剣を交互に見比べながら、しきりにうなってやがる。
「――もう一度、やってみるかね、
からかうように、男がたずねた。大人の余裕を感じさせる、ゆったりとした深みのある声だ。さっきの猛々しい雄叫びは空耳だったのか――そう思っちまうくらい、穏やかな口調だった。
「もっとも、何度やったところで、結果は同じだと思うがね……」
陽射しを浴びて輝く剣を手に、男が一歩前進する。つられるように、怪牛が一歩後退した。男の丈夫な
とうとう怪牛は、くるりと回れ右をして逃げ出した。脇目も振らずに一目散、横道それずに一直線。奴の巨体はあっという間に小さくなって、見えなくなる。あとに残されたのは、俺とデュラムとサーラ、そして怪牛を追い払った青
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