リンボ 0
いつも身につけている着物に袖を通して、赤玉の簪を頭にさす白衣の優しい笑顔のお医者さまがきた。
いくつかのお話のあと、私とだけお話があるという。じゃあ、待っている。とほまれさんが口にしたのに一人の不安のなか、あっちこっちと検査される。
うう、怖いです。とっても怖いですよ。
まほれさん、怖いです。
「……バイタル、含めて異常はありません。お疲れ様です。よかったですね」
「はぁ」
「実感がないですか。まぁ仕方ありませんね」
「いえ」
「時間をかけて解凍しましたが、無理をすると肉体が悲鳴をあげることになるので注意ください」
「悲鳴をあげるとは? 無理できないってことですか?」
「長く眠っていたので、唐突に動き過ぎると筋肉痛になります」
「それは、また、怖いですね」
「……あなたは特殊なオーヴァ―ドです。あなたにしてみれば昨日のことですが、それ以前とは能力の使い方があきらに異なることとなります」
「それは……たとえば、どんな風にですか?」
「そうですね。肉体に不調はありませんが、レネゲイドウィルスの値が明らかにあがりづらい、肉体が今の状態に対応し、あきらかに以前よりも破壊力がましていたり・・・・・・これはジャーム化したときの後遺症と言われてますが、能力の使い方が飛躍的に向上した者もみられますね、また以前よりも衝動に飲まれやすいというのも」
「ほぉ」
「また、長い間眠っている場合は脳に不調があることがある」
「脳みそに?」
「そうです。今までのオーヴァ―ドたちがいうには大切なものへの執着心がずいぶんと緩やかになった、といいます」
「ゆるやか?」
「あなたは、……あなたの夫にたいしてどう思いますか? ときめいたり、懐かしい、愛しいと思いますか?」
「……」
「あなたはたぶん、A+タイプ、つまりは脳の障害を持つことになるでしょう」
「……」
「さて、他に質問は?」
「あの、私って長く眠っていたそうなんですが・・・・・・」
「ええ」
「子どもって作れますか? あ、これって夫婦にとっては大切なことで、その、やましいこととかじゃなくて大切で、真面目なことで、決してえっちぃわけではなくて」
「大切なことですよ。しかし、確認しますが、あなたは」
お医者様が口にしたそれは私の知らない現実だった。
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