13
「ちょっと、休憩や。トイレに行ってくる!!」
そう言って、エコーが立ち上がった。
エコーからは、焦りの匂いが漂っていた。迷いが彼には在った。
「調度、良い。誠慈に話しが在る」
美香が言う。
「場所を移そうか?」
「いや、此処で構わない。お前の父親が、どうしてドルフィンとギャンブルをしたのか知りたくないか?」
「――え?」
突然の美香の問い掛けに驚く。困惑する俺に美香は尚も問い掛ける。
「ドルフィンとお前の父親の関係を、知りたくないか?」
美香はドルフィンの娘だ。確かに、美香ならば二人の関係を知っているかもしれない。第一、彼女からは嘘の匂いが全くしない。俺は父の死の真相を知りたかった。
何故、父はドルフィンとギャンブルをしたのか。何故、ドルフィンとの繋がりが在ったのか、知りたかった。知らなくてはならなかった。
「教えてくれ。父さんは何故、ドルフィンとギャンブルをして、命を失ったのか」
美香の目を真っ直ぐ見て問い掛ける。
「ドルフィンとお前の父・香元礼慈は昔からの親友だった。そして、二人は同じ一人の女を愛していた」
「何だって!?」
「其の女は私の母で在り、ドルフィンの妹でも在る」
「ちょっと、待てよ。つまり、ドルフィンは自分の妹を愛したって事か!?」
余りにも衝撃的な事実に黒部が口を挟む。
実際、俺も驚きの余り言葉が出なかった。
「兄弟婚は血筋を守る為、魔女の家系では珍しい事じゃないさ。だけど、母は香元礼慈の方を愛していた。だから、香元の家に嫁いでいった。実際、私を生む前に香元礼慈との間に、私達の兄で在る香元礼を母は産んでいる。其の辺の詳しい経緯までは解らないが、母は随分、辛い想いをしていたそうだ。調香師として、由緒ある香元家は母の事を認めはしなかった。香元家に追い出された後、香元礼慈に匿われていた母は自らの手で命を絶ったと聞かされている。ドルフィンは其れが許せなかった。ドルフィンは香元礼慈を心底、憎んでいた。ドルフィンは長い年月を憎悪の中で生きていた。香元礼慈を殺そうと何度も企てた。けれど、香元礼慈は屈強なSPを雇っている為、全て失敗に終わった。ドルフィンは其れでも香元礼慈を殺害する事を諦めなかった。長い年月を掛けて、母のクローンを生み出した。母が一番、美しく若い年頃にまで育つのを待った。そして、香元礼慈に在る提案を持ち掛けた。母のクローンを賭けて、ギャンブルをしないかってね。勿論、チップ(参加料)は互いの命と財産、全てだ。後は誠慈の知っての通りさ」
父はどうして其処まで、美香の母を愛していたのだろう。確かに心底、愛する人の為ならば、俺だって何でも出来た。もしも、父の立場ならば俺も同じ事をしている。だけど、俺の母を愛していた筈の父が、どうして。俺には解らなかった。俺の母を愛していなかったのだろうか。幼い記憶の中の父は、俺の母を愛している様に見えた。少なくとも、俺にはそう思えた。其れなのに何故、美香の母を選んだのだろう。父は一体、誰を愛しているんだ。頭の中がぐちゃぐちゃで、心の整理が付かなかった。
「何故、今更そんな事を俺に話すんだ?」
「解らない。只、お前にだけは、話して置かなければいけないと思った」
美香は其れ以上、何も言わなかった。俺も何を話して良いのか解らず、何の言葉も出なかった。
誰も何も言わなかった。辺りに重い空気が流れていた。
百合だけが、涙を流していた。とても悲しい匂いがして、俺の心を悲しく掻き毟っていった。
其れから程無くして、エコーが戻ってきた。
何も知らないエコーだけが、言葉を発する事が出来た。
「待たせたな。最高の策を用意してきたで!!」
自信の匂いに満ちていたが、何故だかハッタリの様にも聞こえた。其れから、直ぐに勝負は再開された。
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