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「其れじゃあ、勝負を再開して貰おうか」
黒部が静かに言う。
「あぁ、其の前にエコー。アンタに聞きたい事が在る」
「何や?」
余裕の表情を浮かべていた。絶対に負けない自信が在るのだろう。
「アンタが持ってる左から二番目のカード。其れは、もしかして【LIAR CARD】かい?」
「何やって!?」
エコーの匂いが揺らいだ。さっきまでの余裕の表情も消え、驚きと警戒の色が付いていた。
『一体、何故?』と、言う匂いが伝わってくる。
「アンタ、解り易いな。其の儘だと負けるぜ!!」
人差し指をエコーに向けて言った。一気にエコーの匂いは乱れていった。軽く汗ばんでいるのが、匂いで解る。さっきまで俺が掛けられていたプレッシャーが、そっくり其の儘、エコーに伸し掛かったのだ。
「教えといてやるよ。俺が最初に出すカードは【LIAR CARD】だ」
駄目押しのブラフ。
カードを場に伏せて、正直者の3を宣言した。
エコーは今、考えているのだろう。何故、自分の【LIAR CARD】が解ったのだろう。まさか、カードにマーキングをしたのか、と。
確かに俺はカードにマーキングをした。だが、エコーには其の方法が解らない。尚且つさっきまで自分が掛けていたプレッシャーを、そっくり其のまま同じやり方で掛けている。しかも、自分のライアーカードが相手に見えてるとなれば、警戒しない奴はいない。
「アンタ、記憶がないって言うさっきの演技、実は嘘だろう?」
在の時、確かにエコーの匂いは乱れていた。演技で匂いまでは誤魔化せないのだ。在の時には気付けなかったが、冷静になって考えればすぐに解る。エコーは自分が何者なのかを知らない。
「匂いで解るんだ。嘘か本当か。そして、其の匂いはカードに染み付く。アンタのお陰で、カードが透けて見える様になった」
確かに、エコーのお陰でカードにマーキングが出来た。だが、カードに付いた匂いは消毒液やガーゼの匂いだった。エコーはカードを左手で持っていたが、さっきの勝負で【LIAR CARD】を、怪我をしている右手で捲っていた。其の時にカードに匂いが付いたのだ。最も、エコーの右手が汗ばんでいなければ、匂いは移らなかっただろう。利き手で在る左手で捲っていれば、匂いは付かなかった。其れは、紛れもなくエコーの『油断』から来た物だった。
俺の絶対嗅覚は絶対だ。絶大な力を発揮する。はっきり言って、此の先にカードにどんな匂いが混ざろうが、匂いを嗅ぎ分けられる自信が在る。
エコーは無言のまま、カードを見ていた。こちらに【LIAR CARD】がバレている限り【LIAR CARD】を出す事は出来ないだろう。ならば、俺が【LIAR CARD】を出した時にライアー宣言をしなければ、勝てないのだ。
俺としても、初手で【LIAR CARD】を通したい。だからと言って、簡単には【LIAR CARD】を出せない。無難に正直者のカードを出し続けて、相手の自滅を待つと言う手が在るが、そんな消極的なやり方では勝てない。
「今度は強気に出たな。ホンマに初手から【LIAR CARD】を出してくるとは思わんかった」
「――っ!?」
奴には俺のカードがまだ見えていない。俺を動揺させて、観察しているのだ。あくまでも冷静に、表情や行動で読み取られない様にしなければならない。
「汗、掻いとんな。動揺しとる。いや、違う。何か仕掛けてる時の汗や。ほんで、嘘を含んでる。例えば【LIAR CARD】を場に出した時の汗や」
エコーは俺の手元を見ていた。ゆっくりと、ゆっくり観察している。大丈夫だ。絶対に気付かれはしない。冷静に対処しなければならない。あくまでに、自然にだ。
エコーが静かに笑った。
――感付かれたか?
「ライアーや。兄ちゃんが追い詰められた時の癖が出てるで」
見据えるエコーの目は、確信に満ちていた。絶対に負ける事がないと思い込んでいる時の目だ。勝ちへの確信は、詰まる処は『邁進』で在り『油断』でも在る。
俺は静かに笑った。
「其れは、此れの事かい?」
俺は左手の親指で、人差し指を引っ掻いて見せた。
「何でやっ!? まさか、癖に気付いとったんか!?」
驚愕の表情を見せるエコー。
「アンタが教えてくれたんだ。自分の武器が目だってな。だったら、俺の癖を探ってくると思って、嘘の癖を憶えせといたんだ」
俺は、ゆっくりとカードを捲った。
「悪いな。俺は嘘付(ライアー)きなんだ」
俺のカードは正直者の3だった。
「見事だ。ドルフィンへの手掛かりを教えてやろう」
無言で勝負を見守っていた黒部が口を開く。
「手掛かり?」
「今はまだ、ドルフィンの居場所は教えられん。只、エコーと行動を共にすれば、いずれドルフィンと会う事になるだろう」
「其れは、どう言う事なんだ?」
「其の時が来れば、いずれ解るさ」
そう言って、黒部は立ち去っていった。
残されたエコーに目を向けると、呑気に煙草を吸っている。いつの間にかグラスには、ウィスキーが注がれている。
「まぁ、こうなった以上は、焦っても仕方ないやろ?」
そう言いながら、エコーはウィスキーを飲み干す。全く、食えない男だった。
だけど、不思議と嫌いにはなれない。
「取り敢えず、店を出よう。話しは其れからだ」
俺の言葉にエコーは従った。
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