林田港へ行ってらっしゃい
ツヨシ
第1話
全国に心霊スポットは数多くあるが、そこで実際に遺体が見つかるという話は、そうそう聞かない。
ところが平成十五年八月、行方不明者の捜索を行っていた香川県警は、林田港の海から五台の車を引き揚げ、ちょっとしたニュースになった。
それぞれの車の中から白骨化した遺体が見つかった。
林田港はもともと心霊スポットとして有名だった。
女の幽霊が出る。
海からいくつもの手が出てくる。
夜に車を止めると、サイドブレーキを引いているのに車が勝手に海に向かって動く。
県外からわざわざ自殺をしに来る人がいる。
などといった噂があったが、この事件以来、四国最恐の心霊スポットなのではないかとささやかれるようになった。
話は変わるが、誰にでも大嫌いな奴がいるだろう。
俺にとっては会社の上司だ。
くそ意地が悪く、口も悪いうえに仕事は全くと言っていいほどできないが、ごますりとはったりだけで出世をしたという、日本のそこらじゅうにいるようなつまらん男だ。
こいつをどうにかしないと俺の精神の安定は保てない。
そう考えていたところ、急に上司が周りの人間に、いい釣り場はないかと聞いて回ってきた。
よくよく話を聞くと、バツイチ独身の上司がある女性に目を付けたのだが、その女の趣味が釣りということなので、自分でもやることにしたようだ。
そこで俺は上司に言った。
「林田港での夜釣りが最高ですね」
上司は初対面から十年目にして初めて俺を褒め、夕方になるといそいそと帰っていった。
明日は休みだ。
今夜、さっそく行くのだろう。
週明けの月曜日、上司は出社しなかった。
携帯もつながらず、様子を見に行った人の話によると、何度呼び鈴を鳴らしても反応がなく、おまけに上司の車もなかったそうだ。
社内はちょっとした騒ぎになった。
が、誰も上司の行方を知らない。
知っているとすれば俺だが、もちろん誰にも言わない。
そんなことをするわけがない。
運が良ければ十年後ぐらいに、白骨化した上司が見つかることだろう。
終
林田港へ行ってらっしゃい ツヨシ @kunkunkonkon
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