夏の風

-5月ー



部屋にいた

蒸し暑く重い空気が体を包んでいた


窓を開け放しても、

天井が落ちてくるように空虚が圧迫してきた


耐え切れず外に出た瞬間

風が身体をすり抜けて消えていった

道の向こうに


見上げた空は青くて白くて


歩き出した僕の目にチクチクと刺さる

新緑の光を揺らして

君がいた。


僕の背中を押す君

僕の頬を叩く君

僕の額に伝う汗に触れる君


車道を走る車の音が

トラックの怒号が

降り注ぐ日差しと


そして君が

僕の心にあの夏の記憶を映す


君といた夏

君と走ったあの夏の日

君の中で眠りに落ちて

君の声で目覚めた

あの夏に。


君の名前は「夏の風」


君はいつも

僕を旅に連れて行こうとする。


「このまま・・・。」


頭に浮かんだ文字が言葉になる前に

君が僕の頬を強くたたいた。


君はいつも僕を惑わせながら

「今」へと戻すことを忘れない。


いたずらな君と


君とずっと歩いて行けたらいいのに。

何にも縛られない君と。

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