18

「師匠、本気なんすか?」


 名古屋駅のホームで、八代は問い掛ける。


「本気やで」


 一二三を養子にするつもりやった。


「一人の漢に、命懸けで託されたんや。其れに応えらんかったら、漢やないやろ?」


「義を見てせざるは勇無きなり、って奴っすね?」


 うん、うん。と頷きながら、八代は勝手に納得する。


「双六がパパかぁ。何か、面白そうやねぇ!」


 目を涙で腫らした一二三が、無理に笑った。


「其れで、此れからどうするんすか?」


「取り敢えずは、一二三の実家で宮園のオッサンの葬儀やな」


 山崎の知り合いの葬儀屋に、既に遺体は運んで貰っている。


「一二三ちゃん、確か福岡っすよね?」


「みたいやな」


 飴ちゃんを舐めながら、一二三はサイコロを握り締める。


 親父の形見のサイコロや。


「一二三のお父さんは、でたん強い漢やったで!」


「そうやろ。お父さんは、でたん強いんばい!」


 涙を伝う顔を、無理にほころばせながら一二三は応える。


 ほんまに、宮園は強い賭博師(ギャンブラー)やった。


「師匠、此れが最期のお別れじゃないっすよね?」


「生きとったら、どっかで又、会うやろ?」


「そうばい。次、会う時は一二三も、すんごいべっぴんさんばい。惚れたら、いかんき?」


 涙を拭って、一二三は笑った。


 宮園に怒られるかも知らんけど、俺は一二三を賭博師(ギャンブラー)に育てるつもりやった。


 一二三からは、並々ならぬ博才を感じるんや。巧く育てれば、最強の賭博師(ギャンブラー)に育つ気がする。


 ほんで、最高に愉しい人生を教えたるんや。


 ——人生は娯楽や。


 人は楽しむ為に、生きらんとアカン。


 一二三の未来に、笑顔が咲き乱れたら宮園も安心して成仏するやろう。


 ——間もなく、8番線から電車が発車します。


 アナウンスが流れてきて、一二三が叫んだ。


「双六、何しとうと。早くせな、発車するばい!」


「其れじゃあ師匠、お元気で」


「おう。お前も、頑張れよ。あ、せや。此れ、やる!」


 八代にサイコロを渡して、電車に乗り込んだ。


「次は九州か」


 今度は、どんな相手が待ってるんやろな。


「何、にやけとうと。気持ち悪いばい!」


「やかましい!」


 ケラケラと笑う一二三。


 俺も釣られて、笑(わろ)うとる。


 電車が発車して、アナウンスが流れる。そして、在る事に気付いた。


「乗る電車、間違えてもうた!」



《おわり》

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人生は娯楽や 81monster @todomaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ