15

「お前が宮園か?」


 薄暗い照明に照らされて、痩せ細った小柄な男が笑みを浮かべる。


 纏わせる空気が、重厚な圧力を感じさせた。宮園は何もしとらん。只、俺を見とるだけや。


 とんでもない存在感とプレッシャーやった。数え切れん程の修羅場を、潜って来たんやろな。


 目の前におるのは、昼間みたいな三流やない。超一流の賭博師(ギャンブラー)や。其れも、相手は死を覚悟しとる。


 並大抵の覚悟やない。


「兄さん、昼間に見掛けたばい。チンコロしよっとか?」


 穏やかな表情で、穏やかな声音で、穏やかな眼差しで、宮園は問い掛ける。


 周りには他に三人。


 宮園に比べたら、カスみたいな奴等や。


「あんたと、サシの勝負がしたいんや」


「……ちょっと。兄ちゃん、無茶を言うたらアカンだら!」


「そうだがや!」


「じゃかましいんじゃ、三下共が! お前等、金持ってるんやろな?」


 一千二百万円を、場に叩き付ける。


 金と気迫に圧されたんかして三人共、急に黙り込む。


「何なら、うちで貸し付けるよ」


 其れまで黙って《うまか棒》を食べとった山崎が、冷淡な笑みを浮かべて申し出る。三人は無言で出て行った。


「勿論、あんたは持ってるよな。可愛い娘の為に、相当な額を貯め込んでるんやろ?」


 写真を態とらしく、見せ付ける。


「きさん人の娘に、どげんしとうとか!」


 さっきまでとは打って変わって、殺気立っていた。


 ——当たりやな。


「なんば、笑っとうとか!」


「安心しぃや。一二三は、ホテルで寝とる。俺はあの子に、頼まれただけや。あんたを見付けてくれってなぁ。けど、俺の目的はちゃう。あんたと純粋に、勝負がしたいんや」


「勝負なら、してやるくさ。けど、一二三は何で、こげんとこにおるんね?」


 冷静な面持ちで、宮園は此方を見る。


 俺は卓に着いて、煙草に火をつける。


「あんたに、会いたいんやってよ。オカンが先週、死んだらしいで。あの子はあんたの為に、普通の人生を捨てる気やぞ」


 表情は変わらんけど、宮園の心中は困惑と混乱が渦巻いてる筈や。


「あんた、もう長くないらしいな。あの子の為に、幾ら稼いだんや?」


 賭博師(ギャンブラー)として、父親として、宮園は一二三の為に家を出て金を稼いできた筈や。


 一二三が何不自由なく、生きていける様に、金を稼いできた筈や。


「御託は、いらんばい。やるなら、さっさとやらんね」


 其れもそうやな。


 賭博師(ギャンブラー)なら、博打で語らんとな——


「ほな、始めよか。あんたに立会人を頼みたい。大丈夫か?」


 山崎を見る。


「良いよ」


 ほな、決まりやな。

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