14

「せからしかぁっ!」


 一二三の叫び声に、目が覚める。


 頭を掻きながら、パジャマ姿の一二三は不機嫌な表情を張り付けとる。原因は八代やな。


 物凄い音量の鼾やった。


「うるさか!」


 ——びたんっ、と八代の額を平手で打った。


「うがっ……!」


 慌てて飛び起きとる。


「もうちょっと、静かに寝れんと?」


「そんな事、言われても……」


 寝惚け眼(まなこ)で困った表情をしとる。


「全く、睡眠不足は、お肌に悪いんばい。知っとうと?」


 一二三は、かなりご機嫌斜めのご様子やった。


 時刻は午前2時過ぎ。子供は寝る時間や。


 ——と、携帯が鳴った。


「誰っすか、こんな時間に?」


 見ると、見知らぬ番号やった。


「もしかして、彼女っすか?」


 俺は無視して、部屋を出た。


「誰や?」


「男が見付かった」


 山崎の様やった。


「えらい、早いな」


「ついでに、男の事も調べたよ。名前は宮園。どうやら、病気を患ってるみたいだ」


「病気?」


「そう。詳しくは解らないけど、あんまり長くないみたい。知り合いに医者がいるんだけど、其処に罹(かか)ってる」


 なるほどな。


 何となくやけど、失踪の理由が見えてきた。


 俺が同じ立場なら多分、同じ事をしてる。


「で、何処に行けば良い?」


「昼間の喫茶店。其処で今、チンチロリンを始めた処みたい」


「解った。直ぐに行く」


 俺は電話を切った。


 部屋に戻ると、現金の入った鞄を持って煙草に火をつけた。


 此れから、大勝負や。端(はした)金やったら、話しにならん。俺の全財産——一千二百万円を持って行く。


「何処に行くんすか?」


 八代の問い掛けを無視して、一二三を見る。


「お父さん、見付かったんやろ?」


「そうや」


 嘘をついても、仕方あらへん。


「何処?」


「今はまだ、言われへん。ガキは寝る時間や。八代、しっかり寝かし付けとけよ!」


「何で。何で、そげんこつ言うと?」


 困惑しながらも、一二三は食い下がる。


 今はまだ、会わせる訳にはいかん。ほんまに宮園の命が残り僅かなら、本来なら一二三に会わせるのが、筋や。けど、宮園自身が其れを望んどらん。


 家を出たのが、其れを証明しとる。宮園は賭博師(ギャンブラー)としての道を選んだんや。なら、俺が賭博師(ギャンブラー)として引導を渡したる。


 其れが、賭博師(ギャンブラー)としての筋っちゅうもんや。


「お父さんに会わして!」


「明日の朝には、会わしたる。とにかく、今は寝ろ!」


 背後で叫ぶ一二三を無視して、部屋を後にした。

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