10

「一二三の親から、いくばい!」


 ほな、最初やから飴ちゃん一個でいこか。


 八代は何個やろか。


「十個、いくっす!」


「ちょお待て、お前。本気で、言うてんのか?」


 絶対、何も考えとらんやろ。


「一二三がいきなり嵐、出したら無条件で三十個やられるねんで?」


「……え、マジっすか?」


 やっぱり、解ってへんかったんか。


 一二三の説明、聞いてへんかったんかいな。


 本来なら放っとくねんけど、いきなり勝負が着いてもうたら白けてまうからな。


「じゃあ、二個いきます!」


「双六、アドバイスしたら、いかんき!」


「今回だけやから、堪忍したってや!」


 一二三がブスくれながらも、了承する。


「覚悟は、出来ちょおと?」


 サイコロを振る一二三。


 ——3・3・4のヨツヤ。微妙な目やな。


「ほな、次は俺やな」


 ——2・2・6のロッポウ。


「飴ちゃん一個、貰おか?」


「次は負けんき!」


「俺の事、忘れてないっすか?」


 八代が申し訳なさそうに、サイコロを投げた。


 ——4・5・6のジゴロ。


「負けたっちゃが。もう、最悪ばい!」


 一二三は八代に飴ちゃんを四個、渡した。序盤から、五個の損失は痛いやろな。


 次は俺の親番や。


「一二三は五個、賭けちゃるき!」


 熱くなっとるな。


 こら、今回はもろたな。


「じゃあ、俺も五個でいくっす!」


 八代も乗ってきたな。


「良ぇんか、二人共。こういう時の俺は、強いでぇ?」


「大丈夫っす!」


「負けらんけん!」


 二人共、覚悟は出来てるようやな。


 ほな、遠慮なくいかせて貰おかな。


「ほら、来た!」


 ——ピンゾロの嵐や。


 三倍で、総取りやった。


「信じられんばい!」


「師匠、マジっすか?」


 二人から其々、十五個ずつ飴ちゃんを貰う。


 此れで一二三の残が十三個やな。


 八代は二十二個。


 俺は四十四個や。


 一気に局面が変わってしもたな。


「もぉ、怒ったき。次から、本気やけんね!」


 ムキになる一二三。


 今度は八代の親番や。


「俺は今回は煙草、吸いたいから『見(けん)』でいくわ」


 煙草に火をつけて、二人の勝負を見守る。


「今度は十一個、賭けちゃるき!」


 ——ほぉ。えらいでかく張ったな。


「そんなに張って、大丈夫なんか?」


「大丈夫に、決まっとろうが!」


「負けたら、後がないっすよ?」


 まぁ、負けて後が無くなるのは、八代も同じやけどな。


「受けたれ、八代」


「やるっす!」


 気合いを入れて、サイコロを投げた。


 ——出た目は1・2・3。総倍付けで八代は、脱落した。


「勝ったばい。凄かろうもん!」


 俺にピースサインを向けて笑う。


 子供特有の純粋な瞳をしとる。


「まけただら〜。でらムカつくぜ!」


 煙草に火をつける八代。


「凄かろ。ねぇ、凄かろ!」


 爛爛(らんらん)と喜ぶ一二三の笑顔が、俺の目には眩しく映る。


「次は、双六を倒しちゃるばい!」


「やれるもんなら、やってみぃ!」


 返り討ちにしたる。


 俺は大人げなく誓った。

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