9
ホテルに戻って、一先ず煙草に火をつける。
肺に煙りを満たして、ゆっくりと吐き出した。細い紫煙を立ち昇らせて、一息つくと缶珈琲を開けた。
「ほんで。お父さんは博打、強いんか?」
「でたん強いばい!」
「でたんって、どういう意味や?」
「めっちゃって、意味ばい!」
八代は煙草を吸いながら、俺と一二三のやり取りを見守っとる。
まぁ、状況を飲み込めてへんのやろ。
「でたんか。何か、言葉の響きが凄いな!」
めっちゃ、強そうなイメージや。
こら、でたんヤバいな。
テンション、上がって来た。
「お父さん、どんな博打するんや?」
一二三はポケットから、何かを取り出した。
「此ればい!」
灰皿に、投げ込む一二三。三つのサイコロが灰皿の上で踊る。
「わぁ、アラシばい。でたん凄くない?」
何ちゅう鬼ヒキや。ピンゾロの嵐やないか。実際のチンチロリンなら、三倍付けやで。
親父譲りのヒキなんか、持って生まれたもんなんかは知らんけど、末恐ろしい才能やで。
こら、うかうかしてられへんな。
俺は張り合う様にして、サイコロを投げた。
——5・5・2の目やった。
「何ね、ニゾウやん。双六、大した事なか〜」
「俺にも、やらして下さい!」
八代が一々、張り合って来よった。
気合い入れて投げたけど、サイコロの一つが灰皿の外に零れ落ちた。
「ションベンばい。下手くそっちゃね〜」
器からサイコロが一つでも落ちたら、ションベン言うて負けになる。
「よっしゃ、もっかいや!」
「良かよ〜」
「其の前に、ルール教えて下さい!」
「もぉ。そんな事も、解らんと?」
俺も驚きやった。
チンチロリンのルールも知らんと、博打で借金こさえとったんかいな。
「一二三が教えちゃるき、良う聞ぃちょくんばい!」
しかし、えらい元気な奴(や)っちゃなぁ。
「宜しくお願いします!」
八代も、えらい素直な奴(や)っちゃで。
「まず、サイコロを椀の中に投げると。出た目の二つがゾロ目やと、残った賽の目が、勝負の目になるとたい!」
例えばピンゾロと3の組み合わせやと、サンタ。さっきみたいに、2やったらニゾウや。
1から6までを順に「ピン・ニゾウ・サンタ・ヨツヤ・ゴケ・ロッポウ」と呼ぶ。
ションベンや目無しは当然、負けや。
一二三の名前の様に、サイコロの目が「1(ひ)・2(ふ)・3(み)」なら負けの役や。
さっき一二三が出した嵐は、サイコロが三つ共に同じ目の役や。無条件で勝ちで、賭け金の三倍額を支払わなアカン。「4(ジ)・5(ゴ)・6(ロク)」の役なら二倍付けや。
大方のルールは、こんな感じやった。
「八代、ちゃんと聞ぃとうと?」
「大丈夫っす。何となく、掴めただら」
「折角やから、何か賭けようや!」
「俺、金持ってないっすよ!」
「子供から、巻き上げる気なんね?」
「心配すんな。賭けるのは、此の飴ちゃんや!」
スーパーで買ったお徳用の飴ちゃん、百個入りの封を切った。
三十三個ずつ分けて、残った一つを一二三の口に放り込んでやった。
「美味しか!」
「親番は、一回毎に交代でいこ。ほな、始めよか?」
斯くして、チンチロリン飴ちゃん争奪戦が幕を開けた。
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