ホテルに戻って、一先ず煙草に火をつける。


 肺に煙りを満たして、ゆっくりと吐き出した。細い紫煙を立ち昇らせて、一息つくと缶珈琲を開けた。


「ほんで。お父さんは博打、強いんか?」


「でたん強いばい!」


「でたんって、どういう意味や?」


「めっちゃって、意味ばい!」


 八代は煙草を吸いながら、俺と一二三のやり取りを見守っとる。


 まぁ、状況を飲み込めてへんのやろ。


「でたんか。何か、言葉の響きが凄いな!」


 めっちゃ、強そうなイメージや。


 こら、でたんヤバいな。


 テンション、上がって来た。


「お父さん、どんな博打するんや?」


 一二三はポケットから、何かを取り出した。


「此ればい!」


 灰皿に、投げ込む一二三。三つのサイコロが灰皿の上で踊る。


「わぁ、アラシばい。でたん凄くない?」


 何ちゅう鬼ヒキや。ピンゾロの嵐やないか。実際のチンチロリンなら、三倍付けやで。


 親父譲りのヒキなんか、持って生まれたもんなんかは知らんけど、末恐ろしい才能やで。


 こら、うかうかしてられへんな。


 俺は張り合う様にして、サイコロを投げた。


 ——5・5・2の目やった。


「何ね、ニゾウやん。双六、大した事なか〜」


「俺にも、やらして下さい!」


 八代が一々、張り合って来よった。


 気合い入れて投げたけど、サイコロの一つが灰皿の外に零れ落ちた。


「ションベンばい。下手くそっちゃね〜」


 器からサイコロが一つでも落ちたら、ションベン言うて負けになる。


「よっしゃ、もっかいや!」


「良かよ〜」


「其の前に、ルール教えて下さい!」


「もぉ。そんな事も、解らんと?」


 俺も驚きやった。


 チンチロリンのルールも知らんと、博打で借金こさえとったんかいな。


「一二三が教えちゃるき、良う聞ぃちょくんばい!」


 しかし、えらい元気な奴(や)っちゃなぁ。


「宜しくお願いします!」


 八代も、えらい素直な奴(や)っちゃで。


「まず、サイコロを椀の中に投げると。出た目の二つがゾロ目やと、残った賽の目が、勝負の目になるとたい!」


 例えばピンゾロと3の組み合わせやと、サンタ。さっきみたいに、2やったらニゾウや。


 1から6までを順に「ピン・ニゾウ・サンタ・ヨツヤ・ゴケ・ロッポウ」と呼ぶ。


 ションベンや目無しは当然、負けや。


 一二三の名前の様に、サイコロの目が「1(ひ)・2(ふ)・3(み)」なら負けの役や。


 さっき一二三が出した嵐は、サイコロが三つ共に同じ目の役や。無条件で勝ちで、賭け金の三倍額を支払わなアカン。「4(ジ)・5(ゴ)・6(ロク)」の役なら二倍付けや。


 大方のルールは、こんな感じやった。


「八代、ちゃんと聞ぃとうと?」


「大丈夫っす。何となく、掴めただら」


「折角やから、何か賭けようや!」


「俺、金持ってないっすよ!」


「子供から、巻き上げる気なんね?」


「心配すんな。賭けるのは、此の飴ちゃんや!」


 スーパーで買ったお徳用の飴ちゃん、百個入りの封を切った。


 三十三個ずつ分けて、残った一つを一二三の口に放り込んでやった。


「美味しか!」


「親番は、一回毎に交代でいこ。ほな、始めよか?」


 斯くして、チンチロリン飴ちゃん争奪戦が幕を開けた。

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