店内には、珈琲を飲んでたオッサンは既におらんかった。


「糞ッ。まだ、近くにおる筈や」


 折角、見付けた獲物や。


 逃がさへんで。


 店を出ようとした時やった。


 後ろから、ズボンを引っ張られた。


「おじちゃん、お父さん知らん?」


 見ると十歳か其処らの女の子がおった。


 迷子かなんか知らんけど——


「誰が、おじちゃんや。双六って呼び!」


「解った!」


 笑顔を向ける女の子。


 えらい可愛らしいけど、変態に連れてかれてまうで。


 放っとく訳にはいかんやないか、糞っ垂れが。


「お前、名前は?」


「一二三(ひふみ)って、言うんばい。可愛かろ?」


 女の子は、九州訛りが在る。此の辺のもんやないみたいやな。


 ほな、旅行者か。


「えらい、ショボい名前やな。知ってるか。一二三ってのは、チンチロリンでは……」


「負けの役っちゃろ? 知っとうばい!」


 何や、知ってるんかいな。


「ママがお父さんみたいな、ろくでなしにならんごつって、考えてくれたんばい!」


 ろくでなし——賭博師(ギャンブラー)の事か。


「お父さんは、博打するんか?」


「するばい。大好きばい!」


「お父さん、皺だらけのちっさいオッサンか?」


「そうばい!」


 間違いない。


 珈琲、飲んどったオッサンや。


 なら、話しが早い。


「俺が、お父さん見付けたるわ!」


「本当?」


 目を輝かせる一二三。


 えらい可愛らしなぁ。


「ホンマや。任しとき!」


 警察に届けても、家に送り帰されるだけや。


 一二三を利用して、オッサン探しや。


 でも早よ見付けらんと、下手したら誘拐犯やな。


「あれ、師匠?」


 八代が紙袋を持って、出て来た。


「其の子、誰ですか?」


 闇金業者が周りに、ようけおる。


 此処やったら何やから、取り敢えず場所を移して話そか。

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