「師匠、大丈夫なんすか?」


 心配そうに窺う八代。


 説明を聞く限りでは、楽勝やった。


 此の面子を相手にするなら、問題ない。


 卓上には其々、灰皿が置かれていたので煙草に火をつける。


 まずは、親決めからやな。


「……や、やった。十二だ!」


 キモ男が6ゾロを出した。


 嬉しそうにしとるけど、親のメリットを解っとるんやろか。多分、解っとらんのやろな。


 皆、順番にサイコロを振っていく。俺の番が来たから、態(わざ)とピンゾロを出してやった。


 キモ男が、鼻で笑った。


 其の様が、めっちゃキモかった。


 脂ぎった前髪を額に張り付けながら、微妙に擦れ落ちる眼鏡を頻(しき)りに上げとる。


「御互い、ついてませんね」


 隣りに座るスーツ男が、声を掛けてきた。こいつの出目は3やった。


 ついてないのは、俺以外の七人の方や。


「ほんまですわ。全然、あきまへんわ」


 態とらしく答えてやる。


 一通りサイコロが振られて、キモ男の親が確定した。


「じ、じゃあ……カードを配ります」


 緊張からか、キモ男の声が震えとる。


 慣れらん手付きでカードを、反時計回りに配っていく。


 俺の元に七枚のカードが配られる。ジョーカー、クラブの1,6、ハートの7、ダイヤの9、K、スペードの3やった。


 後ろで八代が喜ぶ。


 スーツ男は悲痛な呻き声を上げる。


 配られた6枚のカードの内、二組みがペアやったみたいや。ホンマに、ついとらん様やな。手札が二枚しかないギリギリの状態から、スタートや。


 最初の脱落者候補筆頭やな。


 周りを見渡して、其々の手札の枚数を確認する。


 おばちゃんが三枚。


 キモ男が七枚。


 金髪リーゼントが四枚。


 水商売系が三枚。


 若い兄ちゃんが二枚。


 オッサンが二枚。


 後はスーツ男が二枚と俺が七枚やな。


 金髪リーゼントは余裕そうな表情で、煙草を吹かしてる。


 其の隣りでキモ男が、挙動不審な動きをしている。


 まぁ、一巡目は『見(けん)』でいこか。俺はオープンにするカードを、ジョーカーにした。


「ちょ、師匠。何考えてんすか?」


 八代が抗議する。


 場が騒然として、金髪リーゼントが喰い入る様に此方を——ジョーカーを見とる。雰囲気や表情から、金髪リーゼントがもう一枚のジョーカーを持っていると予測、出来た。


 ——にやり。挑発する様に笑う。


 なるほどなぁ。


 俺はキモ男に目をやる。


 相変わらず生理的に受け付けらん面(つら)しとる。其の佇まいは、気色が悪い。だが、異様な空気を纏わせて、俺を凝視しとる。


 ——ちゃんと、混じっとるやんか。


 多少は楽しめそうやな。


「お前等、今まで幾ら摘まんだんや?」


 金髪リーゼントとキモ男は、警戒する。


 俺の見立てでは、二人はコンビや。


 飽くまでも俺の勘やったけど、今の鎌掛けの反応で確信に変わる。互いにアイコンタクトを取る二人は、自分達がコンビだと教えてくれとる。


 賭博師(ギャンブラー)が混じっとるなら、遠慮はいらんな。


 本気で、やらせて貰おか。


「其れじゃあ、親の僕からですね……」


 キモ男はおばちゃんの方を向いて、カードを吟味する。


 おばちゃんのオープンカードは、ダイヤの8やった。キモ男は其れを取らずに、別のカードを取った。


 ちゅう事は、キモ男の手札に8が紛れてるって事やな。オープンカードを作る事で、相手のカードを予測する事が出来る。


 手札の内容が幾らか解って来るに連れて、勝負は心理戦に縺(もつ)れ込むっちゅう訳やな。


「くっ……」


 どうやら、ペアが出来た様やな。まぁ、手札が多いから当然や。


 キモ男は、2のペアを場に捨てた。


「次は私の番だね……」


 既におばちゃんの手札は二枚や。ペアが成立したら、次のターンで負けが成立してまう。


 おばちゃんは迷わずに、スーツ男のオープンカードであるダイヤの2を取った。


 キモ男が2を引いたのが、幸いした訳やな。まぁ、時間の問題やな。


 次はスーツ男のターンやな。どないするかは、解っとる。


 オープンカードのジョーカーを取ってきよった。


 そら、そうやろな。


 恐らく一巡目は、こんな感じでカード消化が続くんやろな。

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