5
「師匠、大丈夫なんすか?」
心配そうに窺う八代。
説明を聞く限りでは、楽勝やった。
此の面子を相手にするなら、問題ない。
卓上には其々、灰皿が置かれていたので煙草に火をつける。
まずは、親決めからやな。
「……や、やった。十二だ!」
キモ男が6ゾロを出した。
嬉しそうにしとるけど、親のメリットを解っとるんやろか。多分、解っとらんのやろな。
皆、順番にサイコロを振っていく。俺の番が来たから、態(わざ)とピンゾロを出してやった。
キモ男が、鼻で笑った。
其の様が、めっちゃキモかった。
脂ぎった前髪を額に張り付けながら、微妙に擦れ落ちる眼鏡を頻(しき)りに上げとる。
「御互い、ついてませんね」
隣りに座るスーツ男が、声を掛けてきた。こいつの出目は3やった。
ついてないのは、俺以外の七人の方や。
「ほんまですわ。全然、あきまへんわ」
態とらしく答えてやる。
一通りサイコロが振られて、キモ男の親が確定した。
「じ、じゃあ……カードを配ります」
緊張からか、キモ男の声が震えとる。
慣れらん手付きでカードを、反時計回りに配っていく。
俺の元に七枚のカードが配られる。ジョーカー、クラブの1,6、ハートの7、ダイヤの9、K、スペードの3やった。
後ろで八代が喜ぶ。
スーツ男は悲痛な呻き声を上げる。
配られた6枚のカードの内、二組みがペアやったみたいや。ホンマに、ついとらん様やな。手札が二枚しかないギリギリの状態から、スタートや。
最初の脱落者候補筆頭やな。
周りを見渡して、其々の手札の枚数を確認する。
おばちゃんが三枚。
キモ男が七枚。
金髪リーゼントが四枚。
水商売系が三枚。
若い兄ちゃんが二枚。
オッサンが二枚。
後はスーツ男が二枚と俺が七枚やな。
金髪リーゼントは余裕そうな表情で、煙草を吹かしてる。
其の隣りでキモ男が、挙動不審な動きをしている。
まぁ、一巡目は『見(けん)』でいこか。俺はオープンにするカードを、ジョーカーにした。
「ちょ、師匠。何考えてんすか?」
八代が抗議する。
場が騒然として、金髪リーゼントが喰い入る様に此方を——ジョーカーを見とる。雰囲気や表情から、金髪リーゼントがもう一枚のジョーカーを持っていると予測、出来た。
——にやり。挑発する様に笑う。
なるほどなぁ。
俺はキモ男に目をやる。
相変わらず生理的に受け付けらん面(つら)しとる。其の佇まいは、気色が悪い。だが、異様な空気を纏わせて、俺を凝視しとる。
——ちゃんと、混じっとるやんか。
多少は楽しめそうやな。
「お前等、今まで幾ら摘まんだんや?」
金髪リーゼントとキモ男は、警戒する。
俺の見立てでは、二人はコンビや。
飽くまでも俺の勘やったけど、今の鎌掛けの反応で確信に変わる。互いにアイコンタクトを取る二人は、自分達がコンビだと教えてくれとる。
賭博師(ギャンブラー)が混じっとるなら、遠慮はいらんな。
本気で、やらせて貰おか。
「其れじゃあ、親の僕からですね……」
キモ男はおばちゃんの方を向いて、カードを吟味する。
おばちゃんのオープンカードは、ダイヤの8やった。キモ男は其れを取らずに、別のカードを取った。
ちゅう事は、キモ男の手札に8が紛れてるって事やな。オープンカードを作る事で、相手のカードを予測する事が出来る。
手札の内容が幾らか解って来るに連れて、勝負は心理戦に縺(もつ)れ込むっちゅう訳やな。
「くっ……」
どうやら、ペアが出来た様やな。まぁ、手札が多いから当然や。
キモ男は、2のペアを場に捨てた。
「次は私の番だね……」
既におばちゃんの手札は二枚や。ペアが成立したら、次のターンで負けが成立してまう。
おばちゃんは迷わずに、スーツ男のオープンカードであるダイヤの2を取った。
キモ男が2を引いたのが、幸いした訳やな。まぁ、時間の問題やな。
次はスーツ男のターンやな。どないするかは、解っとる。
オープンカードのジョーカーを取ってきよった。
そら、そうやろな。
恐らく一巡目は、こんな感じでカード消化が続くんやろな。
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