「此処です」


 随分と汚いビルの一室に、其の事務所は在った。


 ——ニコニコ金融。


 看板には、そう書かれてた。


 どっからどう見ても、闇金やな。


「ほな、行こか?」


 俺はドアを開けた。


 中に入ったら、むさ苦しいのが五人もおった。どの面(つら)も此の面も、厳(いか)つい表情(かお)してはるわ。


 其の中の一人、オールバックの強面が立ち上がる。


「八代ぉっ。今日が返済期限やぞぉっ。ちゃんと、金持って来たのかぁっ?」


 いちいち、うっとおしい喋り方やった。


 ——いてもうたろか。


 いかん、いかん。余りのウザさに、ついつい泉州人の血が騒いでしもた。


 流石に五人相手は、キツい物が在る。


「こいつ、金持ってへんで」


 ビビる八代の代わりに、答えてやる。


「なぁにーっ! 持ってないだとぉーっ! もう、ジャンプは出来ねぇぞ、八代ぉ?」


「田辺さん、ちょっと待って……」


 八代の胸倉を掴む男。


 めっちゃ、ビビる八代。


 ジャンプ。利息だけ払って追加融資を受ける事や。どうやら、八代の限度額は百万円までみたいやな。


 ——俺は札束を取り出して、見せる様に掲げた。


「お前が、こいつの借金を立て替えるってのか?」


 其れまで黙って見ていた男の一人が言った。


 一番、奥。一際、立派なデスクに座ってる。


 多分、此処の社長やな。


「まっさかぁ……。何で俺が、見ず知らずのガキの借金、立て替えらなアカンの?」


「ちょっ……師匠!」


 男に胸倉を掴まれたままの八代が、抗議の声を上げる。


 完全にテンパってる。


「田辺、取り敢えず離してやれ」


 社長らしき男が命じると、田辺は渋々と八代を解放した。


 田辺は八代に、ガンを飛ばし捲ってる。


 社長らしき男は一呼吸、置いて俺に言った。


「じゃあ、お前。何しにきたの?」


 余り抑揚のない声音。


 こいつ結構、ヤバそうやな。匂いで解る。多分やけど喧嘩も強い。


 頭も切れそうや。


「俺は賭博師(ギャンブラー)や。此の金を博打で増やしたい」


「其れが、ウチと何の関係が在るの?」


 感情が余り読めない声音で、社長らしき男が問う。


「賭場を紹介して欲しい。勝った金でなら、八代の借金を払ってやっても良い」


「師匠!」


 さっきまで半泣きやった八代が、晴れやかな表情になる。


「あぁ、なるほど。そう言う事なら、ウチと繋がりの在る賭場が在るよ」


 社長らしき男が、何故かデスクの引き出しから《うまか棒》を取り出した。


「食べる?」


 辛子明太子味やった。


「貰おか!」


 好物やった。


「お前。社長に気に入られたからって、調子に乗るなよぉっ!」


「田辺、うるさい」


 社長に制止の声を掛けられ、田辺は黙り込む。


「じゃあ、行こっか?」


 社長は《うまか棒》を胸ポケットに差して、立ち上がる。


 やたらと緩いやっちゃな。まぁ博打、出来るなら別に良いけどな。

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