3
「此処です」
随分と汚いビルの一室に、其の事務所は在った。
——ニコニコ金融。
看板には、そう書かれてた。
どっからどう見ても、闇金やな。
「ほな、行こか?」
俺はドアを開けた。
中に入ったら、むさ苦しいのが五人もおった。どの面(つら)も此の面も、厳(いか)つい表情(かお)してはるわ。
其の中の一人、オールバックの強面が立ち上がる。
「八代ぉっ。今日が返済期限やぞぉっ。ちゃんと、金持って来たのかぁっ?」
いちいち、うっとおしい喋り方やった。
——いてもうたろか。
いかん、いかん。余りのウザさに、ついつい泉州人の血が騒いでしもた。
流石に五人相手は、キツい物が在る。
「こいつ、金持ってへんで」
ビビる八代の代わりに、答えてやる。
「なぁにーっ! 持ってないだとぉーっ! もう、ジャンプは出来ねぇぞ、八代ぉ?」
「田辺さん、ちょっと待って……」
八代の胸倉を掴む男。
めっちゃ、ビビる八代。
ジャンプ。利息だけ払って追加融資を受ける事や。どうやら、八代の限度額は百万円までみたいやな。
——俺は札束を取り出して、見せる様に掲げた。
「お前が、こいつの借金を立て替えるってのか?」
其れまで黙って見ていた男の一人が言った。
一番、奥。一際、立派なデスクに座ってる。
多分、此処の社長やな。
「まっさかぁ……。何で俺が、見ず知らずのガキの借金、立て替えらなアカンの?」
「ちょっ……師匠!」
男に胸倉を掴まれたままの八代が、抗議の声を上げる。
完全にテンパってる。
「田辺、取り敢えず離してやれ」
社長らしき男が命じると、田辺は渋々と八代を解放した。
田辺は八代に、ガンを飛ばし捲ってる。
社長らしき男は一呼吸、置いて俺に言った。
「じゃあ、お前。何しにきたの?」
余り抑揚のない声音。
こいつ結構、ヤバそうやな。匂いで解る。多分やけど喧嘩も強い。
頭も切れそうや。
「俺は賭博師(ギャンブラー)や。此の金を博打で増やしたい」
「其れが、ウチと何の関係が在るの?」
感情が余り読めない声音で、社長らしき男が問う。
「賭場を紹介して欲しい。勝った金でなら、八代の借金を払ってやっても良い」
「師匠!」
さっきまで半泣きやった八代が、晴れやかな表情になる。
「あぁ、なるほど。そう言う事なら、ウチと繋がりの在る賭場が在るよ」
社長らしき男が、何故かデスクの引き出しから《うまか棒》を取り出した。
「食べる?」
辛子明太子味やった。
「貰おか!」
好物やった。
「お前。社長に気に入られたからって、調子に乗るなよぉっ!」
「田辺、うるさい」
社長に制止の声を掛けられ、田辺は黙り込む。
「じゃあ、行こっか?」
社長は《うまか棒》を胸ポケットに差して、立ち上がる。
やたらと緩いやっちゃな。まぁ博打、出来るなら別に良いけどな。
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