翌朝。


 ホテルのレストランで、ちょっと遅めのモーニング。八代には何時までとは伝えてへんかったけど、もうそろそろ良(え)ぇ頃やな。多分、良くて十回に一度の成功率やな。


 シュガートーストをかじりながら、左手でトランプを操る。上から二枚目のカードを、自然に見える様に抜き取る。


 ——セカンドディール。上から二枚目のカードを、相手に気付かれへん様にして配るイカサマや。


 イカサマの技術を磨くには、ひたすら鍛練が必要や。一朝一夕で身に付くもんとちゃう。


 八代に教えた事もそうや。俺の与えたお題を、一晩でクリアするには、強力なヒキが大前提や。後は、どれだけ成功率を上げれるかが問題やった。


 其れ次第で、八代のポテンシャルも見えてくる。


 尤も八代が成功しようがしまいが、構ってやるのは名古屋に居(お)る間だけや。


 間違いなく八代の借金は、博打に依る物や。未成年の八代が借りれる金融屋は、闇金ぐらいのもんやろな。巧い事すれば、良い賭場に巡り遇える。


「何や。えらい疲れた顔してるな」


 汚(きったな)い面(つら)提げて、八代が目の前に立っとる。


 一睡もせんと、延々とサイコロ振り続けてたんやろな。えらい真面目なやっちゃで。


「ほな、見せて貰おか?」


「……そ、其の前に水飲ませて下さい」


 相当、疲弊しとるんかして、声が渇れてもうてる。


「良(え)ぇよ、飲み。何なら、モーニングも頼んだろか?」


「……あ、お願いします」


 グラスを空にして、席に着く。


 煙草に火をつけて、八代はメニューを取った。


「師匠、此のモーニングのBっすか?」


 俺はシュガートーストとサラダとベーコンエッグのモーニングやった。


 ドリンクはオレンジジュース。


「せや。良いやろ?」


「俺も同じ奴、良いっすか?」


「良ぇよ、頼み!」


 言われるがままに、八代はモーニングのBをウェイトレスに頼んだ。


 八代のモーニングが届いた頃には、俺は全て平らげてオレンジジュースを残すだけとなった。


 煙草に火をつけて、シュガートーストをかじる八代を見た。


「自信の方は、どないや?」


「全然、アカンっす!」


 ——やろうな。


 多分、そうやろうと思った。


「ちょっと、やってみて良いっすか?」


 シュガートーストを中程で置き、サイコロを取り出した。


「良ぇよ。やってみ?」


 成功率はかなり、低い。


 其のかなり低い確率を引けるヒキと、八代の気合いに期待したいとこやな。


「いきます」


 八代はめっちゃ、真剣な表情やった。


 相当、集中しとる。


 俺は、オレンジジュースを飲んだ。口内でオレンジの爽やかな酸味が広がる。


 やっぱり、朝はオレンジジュースやな。其れも、100%に限るわ。


 ——八代はサイコロを投げる。


 出目は6・2やった。


「くっそぉ!」


 声を大にして悔しがるから、周りの人間が何事かと此方を見とる。


「残念やな。弟子には出来へん。けどまぁ。頑張ったみたいやから、借金は何とかしたるわ」


「マジっすか?」


 八代が詰め寄る。


「いちいち、声のでかいやっちゃな」


 隣りのおばちゃん等なんか、あからさまに迷惑そうな顔しとるやん。


「取り敢えず、金融屋の所に行こか。案内して」


「はい!」


 目を輝かせて答える。


 八代が急いでモーニングを平らげるのを待ってから、会計に向かった。

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