18
6セット目。
残りの所持金は約十万円。
さっきの鬼瓦の言葉を信じるなら、向こうも似た様な金額や。
『グー』『チョキ』『パー』に一万円ずつ張った。
三枚共、落札やった。
此れは勘でしかないけど、鬼瓦も同じカードで同額落札や。
一戦目の手は互いに『グー』で”あいこ“やった。
二戦目も『パー』の”あいこ“やった。
三戦目も『チョキ』で”あいこ“やった。
「次や、次!」
鬼瓦は三万円と手札を投げ付けた。
7セット目。
もう、互いに所持金もない筈や。
此処らで決めらんとアカン。
「いよいよ、勝負は大詰めやな」
至極、愉しそうに会長が笑う。
——けったくそ悪い。
けど、確かに面白い勝負や。
体中がひりつく様な此の感覚。
今までに類を見らんぐらい、楽しい。
——最高の博打や。
俺は『グー』を三枚、二万円ずつ張った。此れでアカンかったら、もう小銭しか残らへん。
渡された手札は『グー』が三枚。
鬼瓦の手が、全て『パー』やったら終わりや。
互いにカードを伏せる。
「勝つのは俺や、糞ガキ!」
「今の内に、其の両腕にお別れしときや!」
勝負はジャンケン次第や。
カードを捲るのは、ほぼ同時やった。
「糞がぁぁぁーっ!」
鬼瓦の手は『チョキ』やった。
どうやら、ツキに見放されたんは、鬼瓦の方やった。
『→』を伏せる。
『←』で躱される。
二戦目も同じ手でジャンケンに勝つ。
「此処で凌げば、俺が勝つんや!」
恐らく鬼瓦は『安全(セーフティ)』に逃げる。
追い詰められた人間は、安全な方に逃げようとする。其れが、本能や。例え其れが、誤った選択やったとしてもや。
互いにカードを開示する。
「ようやく、捉えたでぇ!」
予想通りに『安全(セーフティ)』やった。
2分の1の最後のチャンスやった。
此れで外したら、俺に勝ちの目はない。
『↑』か『↓』か。
——イチかバチか。
俺はカードを伏せる。
「癖ってのは、恐いよなぁ」
カードを伏せた鬼瓦は、煙草に火をつけて呟く。
「知ってるか? お前は毎回、此処ぞって時に『↑』に振ってるんや」
鬼瓦の手は『↓』やった。
「多分、小銭しか残っとらんのやろ?」
鬼瓦は万札を広げた。
「俺はまだ、七万ある」
得意気に金を見せびらかす鬼瓦を見て、俺は笑いが込み上げてきた。
「何が可笑しいんや?」
——此処ぞって時やって?
「そんなもん、知ってるよ」
だから、5セット目で追い込まれた時に、其の癖を利用したろうと考えた。
在の時、俺は態(わざ)と2分の1に追い込まれたんや。
三戦目に『↑』を出したのも、鬼瓦に俺の癖を刷り込ませる為。
全ては、此の時の為の伏線や。
「お前の負けや、鬼瓦」
俺は、ゆっくりとカードを捲った。
「糞っ垂れがぁ! ふざけるなっ!」
立ち上がり絶叫する鬼瓦を、ヤクザが三人掛かりで抑え付けた。
引き摺られながら、どっかにいってしもた。
俺のカードは『↓』やった。
「おもろい勝負やったでぇ!」
会長がえらい上機嫌に、此方に歩み寄って来た。
「双六君は強いなぁ。ワシ、気に入ったで!」
妖怪爺ぃみたいな面(つら)して、抱き付かんといて欲しいわ。
「ようやった、兄ちゃん。ワシは信じとったで!」
教祖様はえらい調子が良いわ。途中で寝てたの見逃せへんかったで。
「会長はん。五百万は、後ろの二人にあげて」
師匠と先生には、ほんまに世話になった。
「兄ちゃん、何処に行くんや?」
「ちょっと、トイレや。直ぐに戻る」
五百万円、在れば倍返しになるやろ。
さて、此のままどっかに消えろかな。
七百円ぐらい有るから、何とかなるやろ。
人生は娯楽や。
生きるも死ぬも、風任せの運任せや。
《終わり》
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます