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 どないやって、切り抜けるかな。所持金が残り七万二千七百九十七円や。下手したら、鬼瓦はまだ百万円以上も持ってるやろうな。


 まともにやったら、確実に負ける金額差やった。


「おい、兄ちゃん。ちょっと、良いか?」


 師匠が今までにない真剣な表情をしとる。どないしたんやろか。


 立ち上がり、師匠の元に近付く。


「もう、金ないんやろ?」


「ないよ」


 あっさり、答える。


「師匠と話したんやけど、ワイ等が必死こいて貯めた此の金、使(つこ)うてくれ!」


「全部で、百万円ぐらい有る」


 師匠と先生が、金を差し出す。


「其の金は使えん。しまっとき」


 気持ちは有り難いけど、使う訳にはいかん。


 二人を巻き込むつもりはない。


「兄ちゃん、勘違いしたらアカンで。此の金は、別に貸す訳やない。俺等は博打するんや。兄ちゃんに全額、張って倍にしたるんや!」


 一瞬、言うてる意味が解らんかった。


 一拍、置いて。


 俺は大笑いしとった。


「師匠、偶(たま)にはおもろい事、言うんやな。任しとき。絶対に損はさせへんで!」


 二人から、金を受け取ろうとした瞬間。


「ちょっと、待て。金の貸し借りは、有りなんか?」


 鬼瓦としては、都合が悪いわな。そら、いちゃもんも付けたなるわ。


 けどルール上、問題ない筈や。


「別に良(え)ぇよ。其の方が、おもろなるやろしな。しかし、ほんまに双六君は運が良いな。此の状況下で、まだ息を吹き返せる強運を持ってる。君の人柄やから、成せる業(わざ)なんやろな」


 会長のお許しも出た事やし、遠慮なく金を受け取った。


 師匠達には、ほんまに感謝せなアカンな。


 二人の為にも、絶対に負けられへんわ。


「ほな、続けよか?」


 会長は至極、上機嫌の様子やった。

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