14

 3セット目。


 さて、そろそろ勝負に出たろかな。


 『グー』『チョキ』『パー』其々に二十万円ずつ張った。


 此処で初めて鬼瓦は長考した。


 俺は鞄から缶珈琲を出して、煙草に火をつけた。


 鬼瓦の表情は真剣、其の物や。ようやく、本気になった言う事やな。


 さて、どういう手で来るか知らんけど、今回は使(つこ)てる金額が違うからな。


 鬼瓦が金に物言わせてこん限りは、俺に有利な展開になる可能性は高い。


 どうやら、決まったみたいやな。


 カードが配られる。


 俺の手は『グー』『チョキ』『パー』やった。


 同額落札やない限りは、鬼瓦はオール『手無し』や。まずは『チョキ』や。


 鬼瓦は迷わずカードを伏せる。


「嘗めてる訳とちゃうぞ」


 随分、雰囲気が変わったな。さっきので、スイッチが入ってしもたかな。


 こら、嘗めて掛かったら泣き見るな。


 俺はカードを捲る。


 鬼瓦もカードを捲る。


 鬼瓦は『手無し』やった。


「よっしゃ!」


 教祖様が叫ぶ。


「追い込んだと思うなよ」


 静かに、鬼瓦はカードを置いた。


「思ってへんよ」


 俺は『←』のカードを置いた。


 鬼瓦はカードを捲る。


 『→』やった。


「二戦目や」


 鬼瓦は続け様にカードを置いた。


 不気味な静けさを纏ってる。


 ——そう、静かや。


 息を潜めてる。何かを狙ってる。


 そんな感じや。


 俺は『パー』を置いた。


 即座に鬼瓦はカードを捲った。


 又もや『手無し』やった。俺もカードを捲る。


 カードを見た瞬間、鬼瓦の表情が固まる。何かを逡巡する。


 静かに鬼瓦が笑った。


 そして、カードを置いた。


「此処が山場や。外したら、次はないで?」


 急に獰猛な牙を向ける獣の様に、攻撃的な目を向ける。


 間違いなく何か、仕掛けている。


 攻撃してるのは此方の筈やのに、鬼瓦は守りの姿勢やない。じっとりと焦りが纏わり付いて、心を撫でる。鬼瓦の手を読んで、此処で決める。けど、鬼瓦は次に掛けてる筈や。


 つまり、俺を2分の1に追い込むつもりや。鬼瓦が『パー』を同額落札している可能性が在る。


 けど、只の脅し(ブラフ)って可能性も在る。どっちや。『安全(セーフティ)』か『安全(セーフティ)外し』か。


 もしも、鬼瓦が『パー』を所持していたら、三戦目は鬼瓦の攻撃になる。其の場合、選択を誤れば俺が2分の1に追い込まれる事になる。


 けどもし、只の脅し(ブラフ)やったなら、此処で逃げ切られれば俺は圧倒的に不利になる。所持金の差を利用して、鬼瓦が『グー』『チョキ』『パー』全てに十万円ずつ張られでもしたら、永遠に手無しが続いてまう。


 其れ故の脅し(ブラフ)で、2分の1での勝負を避けさせる戦略なのかもしれん。


 恐らく鬼瓦は『安全(セーフティ)』で来るやろう。二戦目は確実にリスクを避ける。


 三戦目での2分の1での勝負を誘ってるねや。


 だから、今回は間違いなく『安全(セーフティ)』や。


 乗るべきかどうか。迷ったら、飲まれる。


 ——乗るか、逸るか。


 『安全(セーフティ)消化』で『→』のカードを伏せた。


「お前が俺の誘いに乗るって、信じとるで。糞ガキ!」


 捲られたカードは『←』やった。


 俺も『安全(セーフティ)』の『→』や。


 此れで三戦目は、2分の1の戦いや。


 鬼瓦が『パー』を持ってたら、俺が追い込まれる番や。


 カードを場に伏せる。


「此れで、どうや!」


 鬼瓦は『パー』のカードを出した。


 こら覚悟、決めらなアカンな。


「糞ガキ、どないしたんや? 早よカード、捲らんかい!」


「解っとるわ!」


 『グー』のカードを見て、鬼瓦は笑い出した。


「やっぱり、そうか。半分、運に頼ったけど、俺もまだツキに見放されてへんかった様やな!」


 鬼瓦は叩き付ける様にして、カードを場に伏せる。


 完全に、俺のミスや。


 此処は迷っても仕方ない。肚括って『↑』のカードを出した。


「どないや?」


 鬼瓦を睨み付ける。


 完全な運任せや。


 微かに笑う鬼瓦。


「運の良(え)ぇやっちゃ」


 鬼瓦のカードは『↓』やった。


 後ろの三人が、安堵の溜め息をつくのが聞こえてきた。


 けど、ほんまにやばいのは此処からや。

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