13

 二戦目。


 再び『手無し』を置いた。絶対、三戦目の2分の1に追い込んだる。


 鬼瓦は俺を嘗めてる。だから『パー』は三戦目で出て来る。此処まで鬼瓦は、何も考えらんとジャンケンカードを出してる。俺が『手無し』しか出さんから、考える必要がないんや。


 『手無し』やと思うて嘗めてるんや。だから、今回もさっきと同じく『グー』を出す。只、何となく、出すんや。でなければ、危険な『パー』はリスクの低い内に、処理してる筈や。


「どうや。持ってるなら、出してみぃ!」


 鬼瓦はカードを開示する。予想通り『グー』やった。


 俺もカードを開示する。


「何や又、『手無し』かいな。さっきと同じ所持金、削りか?」


 鬼瓦はカードを置いた。


 又、考えなしに置いた。


 完全に油断し切っとる。


 多分、鬼瓦の手は『→』や。深く考えずに、『安全(セーフティ)』消化選択や。


 鬼瓦は間違いなく、俺を格下に見てる。嘗め切っとるんや。だから俺が『安全(セーフティ)』に逃げると思い込んでる筈や。


 俺は『↓』を置いた。


 此れで、間違いない。


 鬼瓦は『安全(セーフティ)消化』を選択する筈や。


 ——俺に誘い込まれとる事に、全く気付いとらんのや。


 俺はカードを開示する。


「アホやなぁ。びびって安全な方に、逃げよったわ。次は逃げ場ないで?」


 鬼瓦の手は『安全(セーフティ)消化』の『→』やった。


 ——貰った。


 鬼瓦を2分の1に追い込んだ。


 俺は『チョキ』のカードを伏せた。


「結局、まともにジャンケンも出来へんまま、終わりそうやなぁ」


 鬼瓦もカードを置いた。


「嘗めるのも大概(たいがい)にしとかな、泣き見るで?」


 俺はカードを捲った。


 瞬間、鬼瓦の顔から余裕が消える。


「え……?」


 焦りの表情が浮かび上がる。


 其れまで黙って無表情に、ウイスキーを飲んでいた警視総監の動きが止まる。若干、表情が固まったんかな。教祖様と先生が揃って、ガッツポーズを取る。


 師匠が笑みを浮かべながら、煙草に火をつける。


 会長は相変わらず穏和な笑みを浮かべながら、勝負の成り行きを見守ってる。


「ちょっ……おい、待ってくれ!」


「何や?」


 鬼瓦は、あからさまに焦っとる。


 俺はカードを伏せる。


「どういう事や。何でお前が『チョキ』なんか、持ってるんや?」


「何でも何も、そら『チョキ』ぐらい持ってるわ」


「説明になってないやろぉ!」


 叫ぶ鬼瓦。往生際の悪い奴や。


「何で、説明したらなアカンねん。良(え)ぇから、早よカード、出せや!」


「解っとるわい。出したるわ!」


 鬼瓦は叩き付ける様にして『→』のカードを出した。


 俺もカードを開示した。


「しぶとい、やっちゃなぁ」


 俺のカードは『↑』やった。


「次や、次!」


 俺は三円を置いた。


「次が在ると思うなよ」


 鬼瓦は十万円の束を三つ置いて言った。


 取り敢えずは三十万円、削れたな。

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