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 さて、まずは所持金の確認やな。細かいのも、しっかり数えとかなな。


 六十七万二千八百三円か。多分、鬼瓦は百万円以上、持ってる筈や。下手したら、二百万円は持って来てるかもしらん。


 まぁ、初っぱなやし最初は様子見で、『グー』三枚に一円ずつ張る事にした。


 使う金額は少ない方が良い。出来るだけ相手の所持金を削りながら、隙を窺う作戦でいこう。


 鬼瓦の方も戦略が練れたんかして、紙をヤクザに提出しとる。


「ほう。こら、おもろいな。二人共、流石は賭博師(ギャンブラー)やな」


 会長が、にやつきながら此方を見た。


「おい、君。あんな金額で大丈夫なんか?」


 教祖様は心配そうやった。師匠と先生も、心配そうに此方を見てる。心配せんでも、此の勝負の肝は把握してる。


 まずは『見(けん)』や。配られた手を見て、教祖様と先生は露骨な顔をしてる。師匠だけは、真剣な表情をしてる。


 『手無し』が三枚か。


 予想はしてたけど、最悪の手やな。


「ほな、まずはジャンケンからやな」


 『手無し』のカードを伏せる。


 鬼瓦も迷わずカードを伏せる。


「1セット目で勝負、着くんとちゃうか?」


 小馬鹿にした顔で此方を見てる。


 此方が『手無し』しかないのを、予想してるんとちゃうか。まぁ、教祖様と先生のリアクションで丸解りやろうしなぁ。


「いやいや。流石に其れは、どうやろう?」


 俺も、余裕たっぷりに返す。


 カードを捲る。


「何や。やっぱり『手無し』か。しょっぱなから、嘗めてるな?」


 嘗めとんのは、どっちやろなぁ。


 鬼瓦の手は予想通りの『グー』やった。


「兄さん、負けんとってや……」


「大丈夫や、先生。まだ、4分の1やからな。そう簡単には、当たらんよ」


 まぁ、当てられたら運が悪かった言う事や。


 俺は『↑』のカードを伏せる。


 鬼瓦も迷わずカードを伏せる。


 此処は長考する場面やないからな。


「びびってるんやないやろな?」


 鬼瓦が挑戦的な顔をする。


「まっさかぁ。俺に勝ちたいんやったら、今がチャンスやで。そない直ぐにカード、決めて良いの?」


「ふん。生意気な糞ガキやで、ほんまに!」


 鬼瓦はカードを捲る。


 『→』のカードやった。


 俺もカードを捲る。


「流石に当たらんなぁ。まぁ、良い。勝負は、こっからや。二戦目は、慎重に選ぶんやな」


 どうやら、鬼瓦も気付いてるみたいやな。


 二戦目は3分の1の戦いやない。二択の読み合いや。俺が『↑』を、鬼瓦が『→』を使えんって事は、俺が『→』を使えば負ける事はない。所謂(いわゆる)、『安全(セーフティ)』の手や。けど、鬼瓦が俺の『安全(セーフティ)』を読んでたら、鬼瓦は『↑』を消化するやろう。そうなれば、三戦目に残る手は互いに『←』『↓』になる。完全な2分の1の勝負になる。そうなれば、流石にやばい。


 逆に二戦目を『安全(セーフティ)』を外して『←』か『↓』で凌ぐ事が出来れば、三戦目は『安全(セーフティ)』で逃げ切る事が出来る。鬼瓦は其れを読んで、『←』か『↓』で当てに来たら其れは其れで、やばい。


 故に二戦目は、『安全(セーフティ)』か『安全(セーフティ)外し』かの二択の読み合いになる。


 此処は『安全(セーフティ)外し』の『↓』や。


「どうやら、腹は決まった様やな?」


 鬼瓦もカードを伏せる。


「頼むでぇ!」


 先生が祈る。師匠は煙草に火をつけて只、此方を見てるだけやった。


 教祖様は神妙な面持ちで、何やら念仏を唱え出した。


 何やねん、其れ。


 どんな博打や。


「お前等ん所は、おもろいのぉ!」


 鬼瓦は腹を抱えて笑っている。


 流石に鬼瓦やなくても、滑稽過ぎて笑(わろ)てまうかも知らん。


 けど全然、笑えんわ。


「まぁ、良(え)ぇわ。早(は)よ捲ってくれるか?」


 俺はカードを開示する。


「何や、逃げ切りか。おもろな……」


 鬼瓦の手は『安全(セーフティ)外し』の『←』やった。


 何とか、逃げ切れた。


 けど、読みは外したな。


 危ない所やったわ。


「二人共、中々やるなぁ。三戦目は結果が解ってるから、やる必要ないやろ」


 其れまで黙って勝負の成り行きを見守ってた会長が、えらいご機嫌な感じで口を開いた。


「ほな、カードの代金、払(はろ)て貰おか」


 俺は三円を出した。


「俺の所持金、削ったつもりやろうけど、残念やったな」


 鬼瓦は六円しか出さんかった。


 一円差か。


 中々、やるなぁ。


 ——おもろいやんけ。燃えて来た。

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