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「さて、面子も揃うた事やし、確認させて貰うとしよか」


 会長が穏和な表情で口を開いた。


「まずは、ホームレスの教祖さん。アンタは鬼瓦を出禁にしたいんやったな?」


「はい。其の通りです」


 教祖様は会長に幾ら渡したんか知らんけど、俺が負けたら丸損やな。まぁ、負ける気はせぇへんけどな。


「ほんで、負けたら鬼瓦に一千万やな。金はちゃんと持って来たんやな?」


「こちらに」


 教祖様は紙袋から、札束の山を取り出した。


 どないやって一千万も、用意したねん。幾ら何でも、ホームレス達の御布施で作れる額とちゃうで。


 ホームレス以外にも、何か色々やってそうやな。


「ほんで、双六君。君にもリスク、背負うて貰おうと思ってな」


 俺は両腕を突き出しながら言うた。


「負けたら、好きにして下さい。其の代わり、勝ったら貰うもん貰いますよ」


「良う言うた。勝ったら、五百万やろう。鬼瓦君も同じ条件を飲んで貰おか?」


「ちょっと、待って下さいよ。こんなガキとの勝負に両腕、賭けるのは納得、出来ませんわ。其れに、親父も黙ってませんで!」


 鬼瓦は、背後で黙って成り行きを見守る父親を見た。父親の後ろ盾が在るから、鬼瓦は好き放題、出来るんや。警視総監の肩書は、ヤクザの世界でも効力を発揮するみたいやな。


「其の心配はいらん。お前は負けたら、勘当やし。勝負せんかっても、勘当や!」


「ちょおっ待ってくれや、親父。勘当って、どういう事や?」


「お前の様な息子はいらんねや。お前の尻拭いで、俺がどれだけ苦労させられたと思てるんや。兎に角、負けたら勘当やからな!」


 願ってもない展開や。


 俺が勝てば、鬼瓦は文無しどころやない。破産や。


 ——悲惨やな。両腕を失い。父親の後ろ盾も失う。序でに、職も失うな。


「解った。やったる。やれば良いんやろ!」


 不機嫌そうに煙草に火をつけて、此方を見る。


「お前、此の間みたいにまけるぞ」


「心配せんで良ぇ。負けるのは、オッサンの方や。此の間みたいな、マグレはもうないで?」


「ふん。精々、今の内に吠えてろや、糞ガキ」


「ほな。皆、以上の条件で異論はないみたいやから、勝負成立やな。ほな、始めよか?」


 会長は立ち上がると、ヤクザ達に何やら指示を出し始めた。


 会長に言われるままに、ヤクザ達は俺と鬼瓦の前にカードを出した。『グー』『チョキ』『パー』『手無し』『↑』『→』『←』『↓』の八枚。


 此の組み合わせから連想、出来るゲームは一つしか思い付かへんな。


 多分、誰もが知る『あっち向いてホイ』や。


「皆さん、ご想像の通りや。今宵は此のカードを使って、ワシの考えた『限定あっち向いてホイ』をして貰う」


 又、けったいな事を考えよるわ。


 『あっち向いてホイ』で、どないやって博打するつもりや。


「基本ルールは、通常の『あっち向いてホイ』と一緒や。問題は、出せる手が制限される言う事や」


 其れで『限定あっち向いてホイ』かいな。


 アホらし。


「まず、勝負は三回戦で1セットとする。そして一度、振った方向には振る事が出来へん」


 成る程。読み合いの勝負やな。


「そして、肝心なのは此処なんやけど『グー』『チョキ』『パー』は、金を使って落札せんと使用、出来へん。最初に使用したい手を、金額と一緒に紙に書いて提出して貰う。もしも、互いの手が被った場合は、より多い金額を書いた方が落札。同額なら、両者共に落札とする。1セットが終了する度に、提示した金額を提出して貰う」


 成る程。成る程。


 中々、面白そうやないか。


「因みに、所持金が0になっても、負けやからな。ほな、始めて貰おか」

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